●言葉は、要らない
二人の出会いは偶然だった。
けれど、それはもしかしたら必然だったからかもしれない。
始まりは、琴璃が倒れている稔を見つけ介抱したことから。
稔は体がすっかり治った後も、ひとりぼっちの琴璃と共にあることを決めた。
過去に何かありそうなことはお互い分っている。
けれど、それに触れないのが、暗黙の了解。
今日は賑やかなクリスマス。
けれども稔と琴璃は、普段と変わらず穏やかだった。
少し遠くに見える街の灯りが、よく見える小高い丘にある公園。寒い夜に公園には、他に人の気配はなかった。
そんな公園のベンチに並んで腰掛ける二人。
言葉数は決して多くない。むしろ少ないくらいだ。
けれどもそれは決して気まずい空気では無い。二人だけの穏やかで心地よい空気。
冬の冷たい空気と、相手の体を近くに感じることが出来る心地よさ……ふたりは体を寄せ合う。
稔は琴璃でなければダメだし、琴璃も稔でなければダメ。
お互いになくてはならない存在なのに、そこに甘さはない。
言葉がない二人の上に、白い雪が降り出した。
舞い踊る粉雪。
ふたりはかわらずベンチに座っている。
言葉に出さずとも、相手のことはわかるから。
また少しだけ体を寄せ合う。
衣服越しに感じる相手の体温。
もう少し体勢を変えたら、きっと心拍数さえ聞こえてくる。
甘ったるい距離ではないが、それで十分に満たされる。
始まった物語は、今どの辺りのページをめくるのだろう。
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