田村・麻衣子 & 楸・朔

●聖夜の月明かり

 偶然見つけた、誰もいない教会。
 まるで、どこか違う場所に紛れ込んだような、そんな錯覚さえ覚える。
 でも、ここは紛れもなく現実。

 白い礼服。白いウェディングドレス。
 これは結婚式の真似事? それとも………。

 かたんと、麻衣子のヒールが音を響かせた。
 先に麻衣子が壇の上に上がっている。
 ステンドグラスから溢れてくる月の光が、彼女を照らし出す。
 眩しい。
 それ以上に、彼女が美しく見える。
 月影の、まるで魔法のような効果は、彼女の背中に光の翼をも生み出していく。
「綺麗だ……」
 思わず瞳を細めて、朔は呟いた。
 光の翼は、決して朔の気のせいではない。
 なぜなら、朔にとって麻衣子は、自分を救ってくれた天使なのだから。

 少しずつ麻衣子に近づいていく。
 白いヴェールに隠された表情は、朔からは見えない。
 壇上に登る直前、朔はその手を彼女に差し伸べた。
(「本当にこの手を取って、後悔しないの……?」)
 そんな想いを瞳にこめて、麻衣子を見つめる。

 しばしの沈黙。見つめ合う二人。
 けれどそれは、ほんの一瞬。次の瞬間には、重ねられる手と。
 ヴェール越しに見た麻衣子の微笑み。

 壇の上に上がり、そっと麻衣子のヴェールを持ち上げた。
 麻衣子は微笑んでいた。
(「後悔なんて、するはずないよ?」)
 そう、言わんばかりに。
 朔は嬉しそうな顔で、彼女の額にキスを贈った。

 どうしようもないオレだけど……ずっと、側にいてね?
 ずっと、一緒にいてね……?
 オレは、君を誰よりも幸せにして見せるから……。
 だから……。
 朔のそんな想いが込められたキスを。

 誰もいないはずの教会。
 白い二人の影が重なる。
 二人の傍には、白い鳥の羽が、一枚だけ落ちていた。




イラストレーター名:ことね壱花