●ダンスパーティで抱きとめて
中庭の見えるホールには、数多くの学生が訪れていた。
芽衣と咲左衛門もこのダンスパーティーに参加している。
そして、パーティーは終盤を迎えた。
このパーティーの見所は、ラストダンスだと言っても過言ではないだろう。
照明が落とされ、仄かなキャンドルのあかりのみ。
黄昏色に染まるホール、緩やかな曲にあわせて、最後の踊りが始まる。
ふわりと、淡い桃色の可愛らしいドレスが揺れる。
その側には黒いタキシードがそっと付き添っている。
(「すっごく、緊張しちゃうよ……」)
芽衣は、どきどきした胸で曲に合わせて、ステップを踏み出す。
二人とも、普段見慣れない服装に、慣れていないこのパーティーの雰囲気。
緊張だけでなく、恥ずかしさをも感じていた。
それに……。
「き、今日は最高に綺麗だよ……」
そういう咲左衛門の言葉に、芽衣は頬を赤く染めた。
「ばか……」
思わず芽衣は小さく呟き、頬の火照りを覚まそうとしても、なかなか上手くいかない。
早く終わって欲しい気持ちと。
このまま続いて欲しい気持ちが、まぜこぜになって。
かつっと、芽衣は何かに躓いてしまった。
地面に倒れる前に、すかさず咲左衛門が芽衣を受け止める。お陰で怪我はない。
「あ……ごめんっ!」
芽衣は、真っ赤になって、すぐさま離れようとするものの、今度は咲左衛門が芽衣を離さなかった。
もう一度、芽衣は、ばかと呟いて。
「こうしていれば、躓くこともないよ」
囁くように紡がれた咲左衛門の言葉は、何だかくすぐったく感じた。
恋人同士にになって、随分経つのだが、二人はまだ初々しいまま。
頬を染めたまま、踊る芽衣。
それを優しげに見つめる咲左衛門。
最後のダンスも、寄り添ったまま、ゆっくりと終わりを迎える。
この幸せなパーティーは、素敵な思い出として、二人の胸にいつまでも残るだろう。
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