シャローム・シュレスウィヒ & 涼宮・杏樹

●Je vous aime

 それは小さな約束。
 商店街に買い物に出かけたときに、街中のイルミネーションを見ようねといった小さな約束。
 その約束は実行されて、聖夜の散歩。
 冷たい空気さえ、心地よく感じてしまうのは隣にアナタがいるから。

「やはり沢山ありますねぇ」
「ホントだねっ。きゃあ、見て見てあれ♪」
 街の中は光で溢れかえっている。
 本当に光の大洪水。
 小さな噴水の周りにも解かされたイルミネーションが、ゆらゆらと水を揺らし照らす。
 木々に巻きつけられた電飾は青く光り、その木の根元には可愛らしいトナカイやスノーマンのライトがあり、足元を照らす。
 どこを見ればいいのか目移りしてしまう。
 無邪気にはしゃぐ杏樹が可愛いものを見つけては、シャロームに良く分かるように指を差し教える。  シャロームはそんな彼女の様子が愛しくて、それだけで幸せな気分になる。

 シャロームよりも少しだけ前を歩き、楽しげに笑い話しかけていた杏樹の足取りが急に止まった。
 そのままシャロームの方に振り返ると、彼の顔を見上げる。
「あのね。少し距離があっても、傍でもね〜最初の頃から、気がつけば……シャロンの微笑とね、優しい視線を感じてね。それがもう幸せの実感なんだけど……キスも大好き」
 ほんのりと頬を紅く染める杏樹の言葉。
 彼女の言葉が終わらないうち。最後の一言を発したと同時に、シャロームの手が動く。
 彼の手は彼女の肩に掛かっているマフラーを掴み、そのまま彼女を引き寄せる。
 それはとても長い時間のような、一瞬の出来事。
 状況が飲み込めずに、瞬く杏樹の碧とその碧をまっすぐに捉えるシャロームの紫。
「メリークリスマス、杏樹」
「メリークリスマス。シャロン♪」
 それは吐息が掛かるほどの距離。
 相手にしか聞こえないほどの呟き。
 でもそれだけで十分。
 瞳を閉じればそれが合図になる。
 すぐに唇は愛しい人の唇にふさがれてしまう。

 煌く輝きの中、重なる影。
 相手のぬくもりに、幸せを感じる。
 いつまでもこの幸せが続くように、聖夜に祈る。




イラストレーター名:青薙 伸