花乃宮・深都貴 & 白馬・旋

●月と雪花と聖なる夜と―胸に咲く花―

 外に一人、旋はいた。
 その手に小さな紙袋を持ちながら。
 ぱし、ぱしっと、小さな音が響く。
 小さな紙袋を軽く上に放り投げては、受け止めるを繰り返していた。
 そのたびにくたびれていく紙袋を見ていると、何だか切なくなるのは気のせいだろうか?

 この紙袋の中には、渡そうと思っていたストラップが入っている。
 ダンスパーティーが終わった後に渡そうと思っていたのだが……そう、上手くはいかなかった。
 手作りまでして用意したプレゼントは、変に緊張して、渡せなかったのだ。
「………」
 少しくたびれてしまった紙袋を見つめ、つい、ため息が零れそうになる。

 そんな彼を遠くで見つめていた者がいた。
 深都貴だ。
 部屋から出て行く旋に気づき、なんとなく気になって、彼の後を追ってきたのだ。
「どうしたの? 旋センパイ」
「おわっ!」
 突然、声をかけられ、旋は慌てふためく。
 そして、相手を見ようにも、何故か目を合わせられないのだ。
「深都貴、か……お前も来たのか」
「来て悪い?」
「いいや」
 ふと、空を見上げる。
 空には美しい月が浮かんでいた。
「月が綺麗ね、ちょっと寒いケド」
 髪をかきあげながら、深都貴は微笑む。
 その姿が、旋の目に焼きついた。

 何故、わざわざ聖夜のダンスを誘ったのか、わかったような気がした。
 そう、プレゼントを渡せずに苛立ちを覚えたのも。
 なかなか目が合わせられなかったのも。
 自分が深都貴を好きだからという事に。
(「自分の想いには、鈍すぎだぜ」)
 思わず旋は心の中で自嘲気味に笑った。

「手、出せよ」
「手?」
 不思議そうに旋を見つめながら、深都貴は手を差し出した。
「これ、クリスマスプレゼントな……」
 そういって、旋が手渡したのは、あのストラップの入った包みであった。
「あと、オマケ……」
 自分の指先に自分の唇を当てる。
 そして、その指先をそのまま、深都貴の唇へと触れさせ、旋は悪戯な笑みを浮かべた。
「っ……なにをっ、っその、じゃなくって」
 過剰反応をして、恥をかきたくない深都貴は、必死に冷静を保とうと努力して。
「ばかっ、もう中入るわっ」
 足早にその場を去っていった。
 先に部屋に戻る深都貴を見送り、改めて月を見上げる。
「勢いで何やってんだ俺は……っ」
 旋は呟く。こめかみを押さえながら。

 一方、深都貴はというと。
「その……ありがとう、ね」
 そう呟きながら、思わずオマケの意味を変に期待している自分を……否定した。
(「だって旋センパイは、まだ彩センパイが好きなンだから」)




イラストレーター名:Bee