黒瀬・和真 & 龍之宮・セルシア

●雪夜に貴方の温もりを

 聖夜は時折雪の降る夜となった。冬の空気は澄んでいて星空が綺麗に見える。ふわりふわりと舞い降りる雪を眺めるのも良い。
「龍之宮さん」
 横を歩く乾いた靴音がセルシアの機嫌を表しているような気がして、和真は星空を眺めていた目を恐る恐る彼女へと向けた。
「何?」
「あ、いや……」
 視線と声の返事として問い返される言葉に答えることもできずに、時折吹き込んでゴスロリドレスの裾や髪をなびかせる風のように時間はただ流れて行く。風の悪戯を除けばただ、揺れながら立ち上る白く曇った息だけが時間が留まっていないことを証明していて。

「私、寒いの苦手なの」
 ようやく沈黙を破ったのはポツリと漏れたセルシアの言葉。沈黙は照れていた為なのか顔はほんのりと赤い。
「それだったら」
 ロングコートの前を開いた和真はセルシアに立つとコートで冷えた身体を包み込む。前をはだけた瞬間に冷たい空気が流れ込んでくるがそんなことは気にならない。
「雪、激しくなってきたわね」
 二人分の温もりは一人よりも温かくて。いつの間にか降り始めた雪が周囲に舞っていたことにも言われるまで和真は気づけなかった。風に遊ばれるように揺れて流れる雪は二人の髪や身を包んだコートにも腰を降ろすが、すぐに溶けて小さな水滴へと変わる。
「――部屋に戻る?」
 口元から立ち上る白い行きと共に首をかしげて和真が言えばセルシアはそっぽを向いたまま答えた。
「もう暖かくなったから、もう暫くこうしていてあげてもいいわ」
 向いた顔の向きから顔色は察せ無かったが、赤面しているのかも知れない。それは暖かさからか照れからか。
「――そっか。それなら良かった」
 まるで全て察したかのように、それで居て控えめな笑みを浮かべ和真は顔を上げる。

「この夏こそは――!」
 半年近く前に誓った言葉が何時か偶然思い出されて、苦笑した頬に舞い降りてきた雪が留まった。二人を包む雪の乱舞はまだ終わる気配を見せることはない。二人の時間もまた。




イラストレーター名:ふるしぜかや