●センスの悪い…マフラー?
結社の道場からの帰り道。
もう日も暮れて、道は薄暗くなってきていた。
「一緒に、帰らないか?」
蒼玄は菜月に声をかける。僅かに緊張した面持ちで。
「ええ、いいですよ」
いつものように、にこっと微笑み、菜月は蒼玄と共に帰る事となった。
その途中。
「受け取ってもらえると嬉しい……」
蒼玄はそういって、この日のために用意したプレゼントを差し出した。
からし色とわさび色の2色の毛糸で編まれた、手編みのマフラーだ。
実はこのマフラー、蒼玄の手作りだったりする。
「ありがとうございます」
微笑み、受け取る菜月。
「これなら、リーンくんにぴったりでしょうね」
その言葉に、蒼玄は思わず声を詰まらせた。
ちなみにリーンというのは、菜月と一緒にいるモーラットピュアの名前である。
「リーンに……いや確かに似合うが……」
本当は、菜月に使って欲しくて作ったものだったのだが……どうやら、想いは届かなかったようだ。
思わず蒼玄は、珍妙な表情を浮かべた。
一方、菜月はというと。
(「蒼玄さんにしては、いい物をくれましたね?」)
と、プレゼントに喜んでいる様子。
だが、その後には……。
(「モーラットの白い毛皮になら、この奇妙な色合いも映えることでしょう」)
残念ながら、からしとわさびの2色は、お気に召さなかったらしい。
けれど、そのプレゼントはしっかりと受け取っていた。
いつもの笑顔を浮かべて。
その笑顔が、蒼玄の目には、喜んでいるように映った。
ふと、空を見上げると、白い雪が降ってきていた。
まるで、柔らかいモーラットの毛のように、ふわふわと。ゆらゆらと。
どうやら、今年もホワイトクリスマスなったようだ。
「……寒くなってきましたね」
見上げたまま、菜月は蒼玄に告げた。
珍妙な表情を浮かべる蒼玄を気にせずに。
「ああ……寒くなってきたな」
二人はゆっくりと降る雪を眺めていたのであった。
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