高藤・加音 & 叶霧・杏

●クリスマスの待ち合わせ

 待ち合わせ場所は間違えるはずはない。
 だって学園の中で一番大きなクリスマスツリーの下で待ち合わせだって決めていたから、間違えようがないはず。
 トナカイ風の可愛いワンピースに、トナカイカチューシャまでして15分前からここで待っている杏。
 時間までは大人しく待ち人を待っていたものの、約束の時間から5分経ち、10分経ちしていく毎にイライラを募らせていた。
「早く来ないと帰っちゃいますよ〜……」
 低い声でむすっと独り言を呟く頃には、抱えていたプレゼントの包みはくしゃくしゃに握りつぶされている。

「やばい、遅れた」
 遅れてやってきた加音は、走ってココまでやって来て息も切れ切れになりながら杏を探す。
「おっそいですーっ!」
 背後から聞こえた声に振り返る余裕もなく、きゅうと加音はその場に崩れ落ちる。
 加音が杏を見つけるよりも先に、杏が加音の事を見つけて。居ても立ってもいられずにそのままタックル。
 もちろん大きな不意打ちに、杏のことを受け止められずに杏が上に乗ったまま地面に倒れてしまっている加音。
 もしかすると息が危ないかもしれない。

「遅刻する人にはプレゼントあげませんよ」
「悪かったって。プレゼント配って回ってたら遅れたんだよ!」
 加音に跨った杏が、彼の頭をペシペシと叩き、加音は遅れた理由を言いながら杏のおでこをぺしっと叩く。
 そこでようやく杏を自分の上から下ろすと、着ているサンタ服を摘み杏に見せつける。嘘じゃないぞと言う意思表示なのかもしれない。
「つめたっ?! 手、冷たいですよ!?」
 額に触れた加音の手が冷たいことに気がつき、ぶつぶつと文句を言いながら、くしゃくしゃになったプレゼントの包みを開けて手袋を取り出すと、加音に押しつける。
「おー、ありがと。でも、なんで包み剥いじゃうのさー」
「なんでもですよー」
 少しはにかんで喜ぶ加音に、頬を赤くする杏。
 しかし包みを開ける楽しみを奪われた加音は、ちょっとむすっとしながらもう一度杏のおでこをペチ。
 ペチっとされながら、誤魔化す杏。
 ようやく最初のどたばたから落ち着いて、やれやれと加音がプレゼントを杏に差し出す。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
 加音の言葉とプレゼントにとても嬉しそうな笑みを返す杏。
 やっとふたりのクリスマスが始まった。

 中身が赤い石がついたイヤリングだという事が分るのはもう少し先の出来事。




イラストレーター名:ミヨシハルナ