●Noel neigeux〜雪の聖夜〜
「この中暑いしさ、少し外の空気吸ってこようぜ?」
そんな龍慈の言葉に誘われて、半ば強引に外へと連れ出された芳華の表情は明らかに少し不機嫌。
「うー……折角盛り上がってたのに」
そんな不機嫌な言葉を吐き出すけれども、でもそれはただの不機嫌ではなく、何かの予兆を感じ取って緊張しているようにも見て取れる。
二人の目の前にあるのは、大きな大きな学園の外に設置されているクリスマスツリー。
「……それに寒いしさっ」
少し刺々しい言葉になるのは、その予兆を感じ取っているから。
龍慈との距離を不自然にとり、ふいっと視線をはずす。
傍から見ればかなりそっけない態度にも見えるかもしれないけれども、彼女自身も今、どうして良いものか困ってしまっているのも事実。
「でも、綺麗だろ?」
そんな芳華のことなど、予測範囲内なのか涼しい顔の龍慈。
芳華を見た後、視線をクリスマスツリーに向ける。
その視線に誘われて、芳華の瞳も輝くクリスマスツリーを捉える。
確かに龍慈の言うとおりに綺麗。
彩り豊かなオーナメント。
輝くリボン。
煌く電飾。
それに………。
「……ぁ。雪」
小雪がちらつき始めた。
緩々と落ちてくる細かい雪を見上げる芳華。自然と掌を空に翳す。
掌に落ちた雪は、儚く消えていく。
そんな彼女の肩を不意に抱き寄せる龍慈。
突然の出来事に瞳を瞬かせ、物凄く近い龍慈の顔を見つめることしかできない芳華。
そのまま静かに龍慈は彼女の体を抱き寄せる。
近くなる身体と身体。
もっと近くなる顔と顔。
何かに誘われて自然に瞳を閉じる。
そのまま静かに重なる唇。
それは永遠のようで、一瞬だったかもしれない。
離れる唇。
けれども近い顔と顔。
龍慈の瞳は芳華を捉えるけれども、芳華は照れて龍慈を見ることができない。だから彼女はそっと彼の胸に顔をうずめる。
そんな彼女が愛しいから、彼女を包み込むように抱く龍慈。
感じるのは雪の冷たさよりも、相手の温かさ。
| |