倉田・柚流 & 梶木・省吾

●【一時休戦】さりげない気遣い

「へぇ、こんな所で会うとは……」
 太陽も沈んで薄暗くなった公園を歩いていた省吾は、見知った顔を視界に認めて足を止めた。薄暗い公園を照らす街灯に照らされる顔は見間違えようもない。
「実に奇遇だなっ!」
「……せやね」
 いきなり構え突進してきたライバルの拳を柚流は両腕で受け止めると、続けて繰り出された拳を横に避け身体を沈め、腕の下をかいくぐる形で省吾へと間合いを詰める。
「くっ」
「今日は聖夜やし、一時休戦にせえへん?」
 慌てて後方に飛びずさった省吾が反撃を予想して身構える前で、柚流は立ったまま首をかしげてみせる。
「一時休戦か。……あのまま続けてれば」
 ブツブツと文句を言ったものの「仕方ねぇ」と言う言葉をため息と共に吐き出して省吾は休戦に応じた。

「冷える時には熱いものだな」
 ガコンと音を立てて缶を吐き出す自販機の取り出し口へと手が突っ込まれ、取り出された缶コーヒーは開封と共に白い湯気を立ち上らせる。
「今年はお互い独り身やなぁ」
「まあ俺に彼女がいればこんな所にはいねぇ。暇だから奴に付き合ってやってるだけだ」
 背後からかけられた柚流の声に缶を口から離した省吾が肩をすくめると、声をかけた当人は何処か連れない返事にもかかわらず微笑して言った。
「そらありがとう、かな? かっちゃんとツッコミ合ったり、ボケたりすんのおもろいし」
「何処が面白いんだ」
 ツッコミ混じりに盗み見すると、柚流はマイペースに微笑んでいて、その表情が一瞬驚きに変わると何故か頭上を見る。
「雪や」
 言葉通り雪だった。寒いのかそのまま手に白い息を吹きかけるところまで見た省吾は片手に持っていた缶コーヒーを突き出した。缶の口から昇る湯気が揺れる。
「……やるよ」
「ありがとう」
 驚きつつ、半ば感心しながら柚流は缶を受け取り、好意を素直に受け取った。
「甘くて美味いんやけど」
「……飲めよ。もういらねぇし」
 暖かさに一息ついて口から缶を離すが、省吾はそっぽを向いたまま、答えを返してくる。
「ふぅ、ご馳走さん」
「さてと」
 二分後、缶コーヒーを飲み終え、二人の会話も途切れた。
「――遊んでも、ええよ」
 先ほどとは違う不敵な笑いを浮かべながら、口を開いたのは柚流。
「今度こそ、絶対逃がさねぇ」
 その表情に言わんとする事を察したか省吾も少し離れて構えを取り。
「ふふっ……。さっきと違う感じで楽しくなりそうやな……」
 二人の戦いは再開された。これが、彼等らしいクリスマスなのかも知れない。




イラストレーター名:秋月えいる