橘・燈火 & 砕牙・伊吹

●ささやかな幸せ とびきりの夜

 家族で過ごすクリスマスなんてどれくらいぶりだろう。
 本当に久しぶり。
 色々な事があって、ちゃんとそろって祝う機会がなかったと言えばそれまでなのだけれども。
 …………ようやく。

「何が悲しくて家族でクリスマスを過ごすなんて……」
 ため息混じりに燈火が呟いていたが、それはその場にいた家族には聞こえていなかった様で、和やかに家族のクリスマスパーティーの時間が流れてゆく。
 家族だけの小さなクリスマスパーティーが終わった後は、燈火と伊吹は二人で家を出てみることにした。
 外はまだ雪は降っていない。
 けれどももすぐしたら降ってきてもおかしくないほど、冷たい空気が外の世界を包んでいた。
 ゆっくりと歩いていく。普段と変わらない町並みなのに、クリスマスイルミネーションで綺麗に彩られ、普段と違う表情を見せていた。
 すると突然伊吹が立ち止まった。どうしたのだろうと振り返った燈火に勢いよく頭を下げる伊吹。
「ごめん」
 真摯な低い声は冷たい空気の中、凛と響いた。
 あまりのも突然の出来事で驚いてしまった燈火。
「ちゃんと謝ってなかったから」
 瞳を瞬いたままの燈火に伊吹が言葉を続けていく。
 それは何に対しての謝罪なのだろう。
 勝手に家を出て行ったこと?
 それとも…………。
 『あの時』のこと?
 色んな想いが燈火の中でぐるぐるする。
 家を出た事にたいしては思うことはある。けれども……………『あの時』の事は。
「心の傷痕は簡単には癒せないけど、見える傷痕は隠す事ができるから」
 そう。『あの時』のことはただの事故なのだから、伊吹が気に病む必要はなという想いを乗せて燈火は言葉にする。義理の母もきっと同じ事を言うと思うから。

 そんな二人の上から、音もなく雪が降ってきた。
 細かな雪は後から後から降ってきて、ゆっくりと町並みを白く染め上げていく。
 白く塗りつぶされていく景色を眺めていたら、景色が白くなるにつれて燈火の気持ちも晴れやかになってくる。
 非日常的な出来事が当たり前になってきているけれども、こうやって同じ景色を眺めて笑いあえる。
 そんな日常を大切にしたい。

「来年こそはお互い相手を見つけて、その人と過ごせるようになっていればいいか……な?」
 燈火が伊吹に向かって小さく笑いかけた。
 来年の事なんかわからないけれども、ただこの先も当たり前の笑いあえる日常を大切にしてきたい。




イラストレーター名:山本 流