魔憑・真白 & 藤枝・優美奈

●『きっと、しあわせ・・・』

 図書室、本の収められた棚がずらりと並ぶ一角はクリスマスという事もあって人も少ない。
「あっ、居た」
「真白君?」
 真白が居るスペースは本棚に挟まれ、視界内にいるのはただ一人だけだ。聞き覚えのある声に優美奈が振り返れば、真白は笑みを浮かべて口を開く。
「えっと……メリークリスマス……お姉ちゃん」
「うん、メリークリスマス……真白君」
 照れながらそう言った真白に優美奈が優しく微笑みかければ、声をかけた当人は表情を輝かせ無邪気に言葉を続けた。
「あのね……サンタさんへの……お願いと、プレゼント……考えてきたんだ」
「そう、どんなプレゼントなの?」
 そっと身体をかがませて視線の高さを合わせた優美奈は微笑んだまま尋ねる。
「えへへ……プレゼントはね……ぼくなの、それでね……お姉ちゃんからのプレゼントは……お姉ちゃん!!!」
「えっ!!!」
「サンタさんに……お願いするんだ『お姉ちゃんが僕のお嫁さんになって下さいって』……だめ……かな?」
 相変わらず照れながら口にした言葉は予想外のものだった。優美奈が驚きの余り動きを止めた僅かな時間に、真白は目の前のお姉ちゃんへ顔を近づけて、唇で優美奈の頬に触れる。
「ままま、真白君!!!」
「えへへ……こうするとね、大好きな人と幸せになれるって母さまが教えてくれてんだ」
 頬を染めつつ戸惑っていた優美奈が目の前に居て真白は無邪気な笑みを浮かべた。
「……おねえちゃん……とっても嬉しいわ、真白君……でもね……」
 ただ、「お姉ちゃん」の浮かべる戸惑いの表情が少し困った様な表情へと姿を変えた後に帰ってきた返答は真白にとっても予想外だったのかも知れない。
「……おねえちゃんと一緒に住まない?」
 先ほどの優美奈とは何処か違うものを含んだ驚きの表情で固まる真白の身体を、優美奈は抱きしめて顔のすぐ側にある耳へ優しい声で囁く。
「ましろくんは、おねえちゃんの弟で、子供で、ボーイフレンドで……家族なの」
 続けられた言葉と共に抱きしめてたままの優美奈は優しくて。
「おねえちゃん……」
 呟きと共に真白の頬を数滴の涙が伝う。
「……あれ? ……ええへ……何で……」
「……ましろくん」
 抱きしめられた腕のしたから出した自分の手で目を擦る真白を優美奈ははいっそう強く抱きしめる。

「「大好き……」」
 しばらくして顔を上げた二人は同じ言葉を口にして微笑んだ。人の居ない図書室で人の目はない。それは、ただお互いだけが知っている二人だけの幸せな時間だった。




イラストレーター名:骨ぱんだ