●帰り道
学園で思いっきりクリスマスイベントを楽しんできた杜生と永。
イベントの余韻を楽しむかのように、少し口数が減った帰り道。
丁度、公園に差し掛かってきた時、細かい雪が空から舞い降りる。
静かな公園内。
ゆっくりと歩く二人の距離は、つかず離れず微妙なもの。
派手なイルミネーションはないけれども、緩くともる街灯が公園内を照らしていた。
そんな街灯を見上げた後、永に視線を向けた杜生。
永が少し寒そうに、自分の指先に吐息を吹きかけているのを見止める。
微妙な距離を縮める杜生。
永に近づき、そっと彼女の手をとった。
そのまま静かに握り締めて、自分の手で彼女の手を温める。
そんな突然の出来事に、永はただ杜生を見上げる。
彼女の視線に杜生は優しく目を細めて、見つめ返す。
その視線に少し恥ずかしそうに目を伏せる永。
誕生日に彼からもらった、左手の薬指にある指輪に彼の手が触れると、なんとなくくすぐったく感じる。
くすぐったさに誘われたのか、伏せた視線を上げる永。
そこには変わらず杜生が向ける優しい笑顔があり、なんとなくほっとする。
合わさった視線はそのまま外すことができず。
言葉なく、ふたりはただただ見詰め合う。
照れたような困ったような、小さなはにかんだ笑みを浮かべながら。
言葉にしたい想いもあるけれども、言葉はなくても伝わる想いもある。
きっと自分のこの想いはこうしているだけで、相手に伝わっている気がする。
ただ相手がこうして自分の隣にいてくれることがとても嬉しい。
今年のクリスマスを大好きな人と一緒に過ごせたことが嬉しい。
いつまでもこの嬉しい気持ちが続くように、幸せが続くように、杜生は永の手を握る。
何も言葉もなかったけれども、二人の距離は近くなったかもしれない。
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