●分け合う温もり〜あなたがいるから〜
寒い夜。店の賑やかなクリスマスソングが、静かに待ち続ける真理の耳にも届く。
思わず漏れる吐息が、白く寒さを感じさせた。
「来ない、の、かな……」
街角にある大きなクリスマスツリーの下で待つ真理は、思わず心にもないことを呟いてしまった。
約束の時間はまだ、ある。
でも、この胸騒ぎは……不安になる気持ちが先によぎってしまう。
(「絶対に、くる!」)
真理は弱気な気持ちに打ち勝つように、強く願った。信じていた。
その手は、いつしか、祈るように握られていた……。
駆けていく足音。
雪で歩きづらくなっている道を、かまわずに葵は駆けていった。
お店の手違いで、真理へのプレゼントを受け取るのに、思わぬ時間をかけてしまった。
このままだと、約束の時間を過ぎてしまう。
いや、そんなことはどうでもいい。
遅れれば遅れるほど、真理を不安に……心配させてしまう。
「っ……くそ、急げ……急げっ!」
転びそうになりながらも、葵はまだ走り続ける。
やっと待ち合わせのツリーが見えた。
いつもは行動に余裕を持つようにしているけれど、先ほどの思わぬアクシデントで、葵は気が気でない。
「っ……急がなきゃっ!」
そして、彼女の姿を見つけた。祈るように待つ、真理の姿を。
「はぁはぁ……ご、ごめん、遅くなった」
葵は素直に頭を下げた。汗だくの顔に息切れしている彼。
「遅い、です」
少し怒った口調でそう真理は言った。
「あっ……」
その真理の言葉に葵は戸惑うが。
「嘘、です」
真理はすぐに笑って、そう告げた。同時に、近くの時計台から、時間を知らせる音楽が流れ始める。
どうやら、時間には間に合ったようだ。
「走って、きて、くれて……ありがとう、ござい、ます」
真理はそっと、葵の頬に手を添え、もう一度、微笑んだ。
真理の手に葵の手が重ねられる。
まるでそれは、暖かな温もりを分け与えるように。
「暖かい……な」
葵も笑顔で、そう呟いた。
気が付けば、空からは白い雪が降っていた。
ホワイトクリスマス。
けれど、二人にとっては重なる温もりが嬉しいクリスマス。
| |