犬神・隼人 & 漆月・沙紅夜

●First X'mas. First kiss.

 月の下、夜であるのが嘘であるかの如く眼下に広がるビル群が宝石を散りばめたように光り輝いている。外は凍てつくような寒さかも知れないが美しい夜景を透かした大きな硝子窓は空間を仕切り寒さとは無縁の快適な空間を作り出している。

「私を信じて行け」
 そう声をかけられたのは何時のことだったか。戦いとセットでの逢瀬は今までに幾度も重ねてきた二人だったが、この日のようなデートとなると全く初めてで……。

「いや〜、楽しかったね」
「そうだな……時計を見た時は時間の進み様に驚いたが……」
 この日の為に押さえたという高層ホテルの一室で、隼人と沙紅夜の二人はベッドに腰掛けてホテルのウリである夜景を満喫していた。そして夜景を肴に言葉を交わして二人だけの時間は進んで行く。まず話題にしたのは昼間の内に済ませたショッピング。
「そのドレスよく似合ってるっすよ」
「そ、そうか?」
 隼人の誉めた胸元の開いた真紅のドレスはその時に購入した物なのだろう。頬を染め恥じらいつつ沙紅夜は身じろぎした。脳裏に浮かぶのは半日ほど前の隼人の姿。街でのショッピングも沙紅夜は好きだったが、この時は嬉々としてさまざまな服を持ってくる隼人に色々な服を着せられて居た。無論嫌ではなかったが。ショッピングの前後も含め、沙紅夜には全てが新鮮で刺激的だった。

「夕食も寮のパーティーでいっぱい食ったし……みんなで食べると食事も美味しいっすよね?」
「ああ。出遅れた感はあったがな」
 話題も夕食の話へと移って、隼人が何気なく時計を横目で見れば時は予想以上の速さで進んでいて、言外に次への行動を促していた。
「沙紅夜さん、手を出して貰えるっすか?」
 話題に紛れて何気なく口にした一言。
「ん? これでいいか?」
 それ故に警戒も身構えもせず差し出された手に隼人は手を重ねて、軽く握っていた指の力を緩める。
「メリークリスマスっす」
「これは……」
 手を広げればそこにはペアイヤーカフスが。
「ありがとう」
 おそらくは手作りなのだろう、何の根拠もない直感だが何故かそんな感じがして沙紅夜はクリスマスプレゼントを押し抱き再び口を開く。それ以上言葉は要らなかった。月の下、夜景の光と月光に照らされた二つのシルエットはどちらからともなく寄り添い、やがてその唇が重なった。月と最高の夜景は、二人の初めてのクリスマスを祝福するように照らし続けていた。




イラストレーター名:Hisasi