氷采・陸 & 井伏・恭賀

●きらめくメリー・クリスマス

 楽しかったパーティーを終えて、二人は外に来ていた。
「今日の学園でのクリスマスパーティ、素敵でしたね」
 そう話し出すのは、陸。
「こんなに賑やかなのは初めてで、とても楽しかったです。きっとそれは、井伏さんがいたから……」
 そこまで言って、陸はかぶりを振った。
「なんでもありません」
 そう言い直す陸に、恭賀は気にしていない様子。
「うん、パーティー楽しかったね」
 そういう恭賀に陸は思わず、困ったように微笑んだ。
(「こうしてふたりきりで歩けるだけでも、幸せですもの。優しい笑顔を浮かべてらっしゃるけれど、全然気づいていらっしゃらないですものね……」)

 ふと、賑やかな声が聞こえてくる。
 いや、それよりも眩しく感じるのは、気のせいだろうか?
「人が集まっていますね。なにかしら? 近くに行ってみませんか?」
「そうだね、行ってみよう」
 二人は気になる場所へと向かったのであった。

 そこは、輝くクリスマスツリーであった。
 見上げるほどに大きなツリーと、そして、ツリーを見ている大勢の人々。
 陸は瞳を細めて、ツリーを眺めていた。
「うわぁ……すごい。とっても綺麗ですね。きらきらと光がこぼれて、まるで星の世界に来たみたいです」
 きらきらと輝くツリーを眺めながら、陸は呟いた。
「見れてよかったですね、井伏さん……井伏さん?」
 そう声をかける陸に恭賀はやっと気づいた。
「あ、ごめんね。ツリーがあんまり綺麗だったから」
「本当に綺麗ですものね。お気持ち、わかります」
 しばらく黙っていたのは、ツリーに見惚れていたから。
「……まばゆく輝くツリーに照らされた横顔も……素敵ですよ」
「え? 何?」
 陸の呟きは残念ながら、恭賀には届かなかったらしい。
「いいえ……ツリーが綺麗ですねって」
「うん、とっても綺麗だよね……」

(「その視線がこちらを見てくだされば、というのは、我侭ですよね。いつかきっと……なんて、思うのはやめにしましょう。その笑顔を見られるだけで、こんなに幸福で満たされるんですから。今日はもう少しこのままで……」)
 陸はそっと、恭賀に寄り添い呟いた。
「メリー・クリスマス、井伏さん」
 その声は恭賀に届いて。
「メリー・クリスマス、陸さん」
 恭賀はそう、嬉しそうに微笑んだのであった。




イラストレーター名:春樹