●とっておきの夜景
クリスマスの夜。
満天は、アニエスをビルの屋上へと誘った。
大好きな満天からの誘い。
アニエスはとびっきりのオシャレをして、満天に渡そうと思って用意した花束も持って、屋上へと向かった。
「見せたいものがあるんだ」
もしかしたら……とアニエスは思う。
(「どうしよう、指輪とか貰っちゃったりしたら!!」)
いろいろ妄想しながら、アニエスは満天の待つ屋上への扉を開く。
「おっ! 来たな、アニー」
そういう満天の後ろには、綺麗な夜景が広がっていた。
高い位置から見下ろす、美しい夜景。まるで宝石箱をひっくり返したような、美しい夜景がそこにあった。
「すっごく……綺麗……」
瞳を輝かせながら、アニエスは嬉しそうに微笑む。
「だろ? でもさ……」
喜ぶアニエスを、満天はそーっと後ろから抱き上げた。
「やだ……満天先輩ったら……今日は大胆!?」
頬を染めて勘違いしているアニエス。
「ち、違うって」
満天はアニエスに思わず、突っ込みを入れた。アニエスの願う展開……とは異なるようだ。
「とにかく、飛び降りながら見る夜景、すっげー綺麗なんだ」
「え?」
アニエスを抱きかかえながら、にっと笑みを浮かべる満天。
そのまま走り出し、屋上の柵を蹴って飛び降りた。
落下していく二人。
普段慣れている満天は平気な顔をしているが。
「なんでぇーーー?!」
もっとクリスマス的なことを妄想、もとい想像していたアニエスは、思ってもみなかった展開についてこれずに驚きと混乱して、悲鳴を上げている。
「大丈夫だって。ほら、綺麗だぜ」
満天はアニエスを落とさないよう、しっかり抱きかかえながら、綺麗な場所を指で指し示している。
でも、アニエスはもう、その方向を見ていない。
というか、見られない。
涙目で満天の服にしがみつくアニエスは、夜景を見る余裕すらなかった。
赤い花びらが舞う。
それはアニエスが満天にと用意した花束のもの。
いや、それだけではない。
空からは白い雪も降ってきていた。
そして、広がる美しい夜景。
アニエスにとっては、怖い光景かもしれないが、満天にとっては、この夜景が一番の宝物。
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