●雪の降る聖夜
舞い踊る白い妖精、この寒さの中でしか存在を許されない彼女らは存在を許されたことを喜び満喫するかのように宙を舞い、ゆっくりと降下して行く。
「わぁ、雪ですよ一視」
一視と二人ベンチに腰掛けて見上げる六花の頭上からも白い妖精達は例外なく舞い降りてくる。無論、このような光景は二人の居る公園だけではないだろうが、肌を刺す寒さとそれを忘れさせるかのように美しい雪の乱舞は公園のベンチでさえ幻想的な場所へと変えてしまう。
「ああ」
「はぇっ? 一視寒いですか?」
何か考え込んでいるのか相づちだけで応じた一視に、六花は首をかしげながらも荷物の中から青いマフラーを取り出した。両手で持ったマフラーは温かで、六花は頬を染めながら両手を一視の頭上に持って行く。
「こうすれば暖かくなりますよ」
「あ、ああ。ありがとうな」
照れ笑いしながら礼を言う一視に笑顔を向けながら六花はそっとマフラーを巻いて行き、マフラーの端が残り少なくなったところで不意にマフラーを引いた。当然、引っ張られたことで二人の距離は縮んで、六花の唇が一視の頬に触れる。
「クリスマスプレゼントです」
それはマフラーのことなのか直前の動作のことなのか。真っ赤になって固まってしまった一視には考えることさえできなかったかもしれないが。固まっている間に唇は離れ、ただ名残だけがしばらく残る。我に返るまでにかかった時間はどれほどだったのか。ただ、頬の感触と温もりが残っていた時間の方が長かったのは間違いなくて、一視は六花に向き直る。
「今まで色々考えて……上手く言おうと思ったんだけどよ。あんまり頭良くないからよ、単純な事しか言えねぇや」
勢いをつけて、勢いを借りて。一息に。
「六花、好きだ。俺は、凍瀧 六花が好きだ! だから、パートナーよりも恋…………」
言おうと言葉を続けたところで、一視の瞳に飛び込んできたのは、少し驚いたと言うような表情の六花とその肩越しに足を止めてこちらを見ている……通行人?
「くっ?!」
首を回らせれば、何人もの通行人が足を止め二人を見ていた。
「六花っ、場所を変えるぞ」
「はぇっ?」
慌ててベンチから立ち上がると、六花の手を引きながら通行人の間をくぐり抜け、焦るあまり道ばたの石ころに蹴躓きそうになりながらもベンチを後にする。
「好きだぞ」
ただ、その間に六花に向けて小声で囁いた言葉はきっと伝わっていただろう、手の温もりと共に。
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