高山・仁斎 & マリウス・ウスティノフ

●クリスマスの二人の音楽会

 きいっと部屋の扉が開かれる。
 そこに現れたのは二人の少年。学校の帰りらしく、二人は制服のままであった。
「さすがにこの季節、半ズボンは寒いな」
「そうですね」
 マリウスの言葉に仁斎が頷く。
 部屋の中にはグランドピアノが一台。
「まあそんなことはよしとして。今日はクリスマス。二人で音楽会でも開いて祝うとするか」
「えっと僕はピアノを弾かせてもらいますね」
 かたんとピアノの蓋を開いて、楽譜を広げる。
 と、仁斎の手が止まった。
「曲はまだ決めてないんですけど、どの曲にしますか?」
 その言葉にマリウスは、眉をひそめていたが。
「まあ適当に、知っている曲で」
 これなら知ってるよねと、マリウスが歌いだす。
「はい、これなら知っています」
 嬉しそうにマリウスの声にあわせて仁斎もピアノを弾くが。
「あ、あれ?」
 上手くいかない。
 テンポがあわないのは、指揮者がいないせいか。
 それとも……。
 もう一度、マリウスが歌い、それにあわせて仁斎がピアノを弾く。
 テンポがずれているらしく、やっぱり上手く合わせられない。
 そうこうしている内に、時間は過ぎていって……。
「あ、そうか」
 二人は気づいた。
 歌ってから弾くのではなく、ピアノの演奏にあわせて歌う方が良いのではないかと。
 さっそく、合わなかった曲で試してみる。
 部屋中にピアノの音が響き渡る。
 イントロから歌の部分に差し掛かり。
 ピアノとマリウスの声が合わさった。ずれることなく、むしろ綺麗に響き渡る。
 二人は思わず顔を見合わせ、笑顔になった。
 二人だけの音楽会は、ここから始まった。

 気がつけば、辺りは暗くなっていた。
 少し肌寒くも感じる。部屋の窓を覗くと、どうやら外は雪のようだ。
「さあ、夜も更けてきたし。そろそろ寝るか」
「そうですね。そろそろ近所迷惑になってしまいますし」
 にこっと微笑んで仁斎はピアノの蓋を閉めた。
 二人だけの音楽会。二人は楽しげに笑い合いながら、その部屋を後にしたのであった。




イラストレーター名:ねこ