吉良・一真 & 阿部・晴人

●正しい?クリスマスの過ごし方

 
「おかしい。何でクリスマスだってのに、こんなところで野郎二人でいないとならないんだ?」
「統計的に言って、彼女が居ないからではないかな?」
 晴人の疑問を投げかけた声に合わせて、誰が持ち込んだのか机の上に置いてあったサンタ人形が踊る。そう、この日はクリスマス。
「それにしても……。晴人はともかく、何でオレに彼女が居ないんだ? 確率的に不可解だ」
 一真は隣に立つ晴人へと眼鏡の中程を指で押し上げながら問題点を指摘すると、腕を組んで首を捻る。真剣な表情で考え込む背を晴人が無言で眺めている事など全く気づきもせず、「理解に苦しむ」という表情でただひたすらに。
「まあ、居ないものはしょうがないな。居ないなら、今から作れば良いんだしな。ナンパ行くか! さらば、寂しいクリスマス!」
「なるほど、晴人にしては実に素晴らしい意見だ」
 やがて可哀想な物を見る目で一真を眺めるのに飽きた晴人が口を開くと、眺められている当人はこの提案に得たりと頷く。二人は思い立ったが吉日とばかりにイルミネーションの光溢れるクリスマスの街へと繰り出していった。ほぼ同時に部屋を飛び出すその息の合い様は腐れ縁の賜物か。

「まずは偵察だ。敵を知り己を知れば百戦危うからず、統計的に真っ先にすべき事はこれだ」
「敵って誰だ……まあ、統計的はともかく相手を決めなきゃナンパの仕様もないな」
 断言する一真の言葉を話半分に聞きながらも、頷いた晴人は周囲を見回し、ふとこちらへやって来る一人の女性に目を留める。
「お、一人で歩いてくるって事は独り身なのか?」
 「これはチャンスか」と向き直る晴人を一真が「やめておいた方が良い」と引き留めた。
「あー、行っちまった……何でだ?」
「手を見るんだ。薬指にしているだろう、指輪を?」
 未練がましくその姿を目で追っていた晴人が振り返ると、一真は得意げに先ほどの女性には相手が居るはずと主張した。
「しかし今は一人。確率的に相手の元へ向かう途中の可能性が高い」
「な、なるほど」
 思わず頷いたの晴人の足下、ナンパ作戦その26で使用予定の野良猫がダンボールに入ったまま「にゃあん」と鳴き声をあげる。
「小道具も用意した、作戦も完璧だ。これでナンパの成功はまず間違いない」
 一真の自信に満ちた言葉が晴人にも何となく頼もしく思えて、二人は更に偵察と言う名を借りたナンパ相手の物色を続けた。一時間が経ち、二時間が経ち……気がつけばダンボールに入っていた野良猫が居なくなると言うアクシデントに襲われても二人は挫けない。

「ふむ。統計的に、あのカップルは2ヶ月で破局を迎えるな」
「よーっし、破局したてがチャンスだな!」
 眼鏡の位置を調整しながら一組のカップルを眺める一真の横でメモをとる晴人。2ヶ月後にはクリスマスが終わってるなんて事、突っ込むのも無粋だろう。二ヶ月後がバレンタインの終わった頃でむしろ逆にラヴラヴ度が増していたなんて結果もきっと無いに違いない。
「次はあっちだ。あのカップルは統計的に……」
 二人の挑戦はまだまだ終わらない。いつの間にか日も変わったのか、周囲の店が閉店準備を初めてはいたが。二人のクリスマスは諦めるまできっと終わらない。




イラストレーター名:ヤトアキラ