風間・叉那

<ヨーロッパ人狼戦線1 侵攻開始!>


 ポーランド北東部、ペドラシェ県。
 県都ビャウィストクから数十キロの距離を離れ、ポーランドとベラルーシの国境にまたがる形でビャウォヴィエジャの森は存在する。
 東京ドーム2万個という信じがたいほどに大きな面積を持つこの森は、千年前にポーランドとヨーロッパの低地部の大部分を覆っていた巨大な原生林の、現代に残された最後の断片だ。

 ユネスコが定める世界遺産にも指定されたこの場所には、毎年10万人の観光客が訪れている。
 だが、いかに現地の人々が多くの観光客を受け入れているとはいえ、銀誓館学園の能力者達の姿を目にしていれば、流石にいぶかしく思ったことだろう。
 何せ人数が数千人な上に全員等しく若者で、加えて入国理由は修学旅行と来ている。
 大規模と言うべき人数で現地を訪れた能力者達は、現地の人々に見咎められないようなルートを選び、戦場へと進んだ。

 時刻は午前2時近く。深夜の森を、能力者達は行く。
 決して観光客の立ち入らぬ、ビャウォヴィエジャの森の深く……そこにある人狼の拠点こそ、彼らの目指す場所であり、人狼達との戦いの場だ。
 人の手が入らない原生林の土壌は時に湿気をはらんで足を取るが、イグニッションした能力者達の歩みはその程度では止まらない。

「そろそろ、目的地だね……メガリス、準備しよっか」
 風間・叉那(明星の仔竜・b05649)の声と共に、古びた小槌が運ばれて来る。
 日本から能力者達と共に空輸されたメガリス、『打ち出の小槌』。
 御蛹村での戦いで能力者達が勝ち取ったそのメガリスに、意識を集中すると共に膨大な力が渦を巻き、そして弾けた。
 同時に発動するのは、銀誓館学園のメガリス破壊効果、生命賛歌だ。
 能力者達の命を支える大いなる力は、今ここに、その力を顕現させたのである。

「侵攻開始!」

 号令と共に、能力者達は一挙に森の入り口への侵攻を開始する。
 待ち受けるのは精強な人狼騎士、それに彼らに付き従う妖獣ゴーストウルフだ。

 ビャウォヴィエジャの森を駆け抜けて処刑場への道を遮る封印を破り、そして囚われたヘルムート達、銀誓館学園の仲間となった人狼騎士達を助け出す。
 それら全てを、人狼側の最強存在、フェンリルが現れるよりも早く行わねばならない。
 8ターンという生命賛歌の効果時間に加え、さらなる時間の枷が能力者達に圧し掛かる。
 だが、囚われた者達を救出し、なおかつ森の彼方に本陣を構えた人狼十騎士を倒す事が出来たなら……人狼と吸血鬼に長い戦いを強いてきた者の正体を、暴くことに結び付けられるかも知れない。

 決意を胸に、能力者達の戦いは、今、始まる。