<リプレイ>
●結社企画巡り 〜結社企画発表編〜
「そ……そろそろ、ですね」
桃野・栞は、その緊張を示すかのようにぎゅっと手を握り締めた。
彼女は今、結社活動発表の投票集計結果を、上位入賞を果たした結社に向かおうとしているところだ。学園祭に来ている多くの人の姿、そして盛り上がる学生達の姿に、内気な栞といえども、どこか心浮き立つものを感じずにはいられない。
「き、緊張しないように頑張らないと……盛り上がっている結社の企画なら、色々と参考になるかも知れませんし!」
そのセリフが既に緊張している事を明らかにしているのだが、そうとは意識せずに栞は投票結果の記された紙を広げる。
そこに記された結社企画名と目の前の看板に書かれた文字が同じであることを確認すると、彼女は意気込んでその入り口に足を踏み入れた。
●第3位『夜のオープンカフェ【星をみるねこ】』
栞が最初に訪れたのは、屋上に設けられたオープンカフェだった。
暑さが続く日中、本格的な営業はまだのようだが、それでも賑わいはかなりのものだ。『夜』の名を表すように、光を遮る天幕が飾られ、その内側にはプラネタリウム風の飾りつけが施されている。
「あ、あの、すいません……」
「はい、いらっしゃいませ!」
出迎えたスーツ姿の玖田・時那(グリーンラヴェイジ・b16160)に小声で手短に用件を伝えると、栞はすぐに席に案内された。
中では飲み物を提供する他、占いも行われている。
「た、確か、案内では古代バビロニアがどうとかありましたけど……『オススメ来訪者占い』に、『適職占い』……?」
「他にも、『立喰い占い【マッハ軒】』とか『モーラット占い』なんていうのもあるよ?」
微妙に興味を惹かれるものを感じながら店内を見渡せば、飲み物は勿論、この占いを楽しみにしている客は多いようだった。
那智・れいあ(空駆ける銀獅子・b04219)や刈谷・紫郎(見通す者・b05699)といった客をはじめとして、それぞれ占いの結果に一喜一憂している。
ややあって来た団長の深海・汽水(紅蓮の背教者・b12025)に、栞は小声で用件を伝える。
ほう、と目を見開き、汽水は店内にいた皆を見渡して発表した。
「皆さん、聞いて下さい。今年、この結社の企画は3位に入賞したそうです!」
発表とともに、どよめきと拍手が続いた その拍手が収まるのを見計らって、栞は乾・玄蕃(姫君の魔砲使い・b11329)に問いかけを投げる。
「あの……こちらでの企画はどのようなものだったのでしょうか?」
「何をしたかって? そりゃ占いさ、魔法使いらしくな。色々占ったよ。お客人と想い人との相性やら、明日の運勢やら……」
「あとは、この乾さんと恋人さんの相性とかですね」
「……!」
しれっとした表情で言った汽水に、顔色を変えたのは玄蕃と織原・朗(花嵐・b08373)だ。
なんとなく玄蕃の恋人が誰なのか察した栞に、汽水は続ける。
「ちなみに結果としては、苦難の道。幾つかの障害に阻まれますが、それこそが絆を確かなものへ成長させるでしょう、と……」
「あ、あの。その話題はその辺りで……」
そろそろ玄蕃の目が怖くなって来たので、栞は慌てて話題を変える。
「と、ところで去年に続いての上位入賞ですが……また来年も、期待して良いでしょうか?」
「ええ、勿論です」
汽水が力強く返答する。
その間に、新しい客が入って来る。喫茶店と占い、それにプラネタリウム……定番ものを合わせた難易度高めの企画を、2年続けてうまく裁いているこの結社の結束力を感じつつ、栞は次の教室へと向かうのだった。
●第2位『エクストリーム・しりとり』
次に栞が入った教室で行われていたのは、しりとりだった。
「次は、『つ』ですね」
「つ……ええと、『徒然草(つれづれぐさ)』で。次は『さ』です」
氷采・陸(瑠璃色ニュートラル・b28712)に促され、シルフィア・クロス(白の王女・b19633)が首を捻っている。
しりとり。
参加者のうちの1人が、最初に任意の単語を言い、以降の者が順番に、前の人が言った単語の最後の文字から始まる単語を続けて行くという、あの遊びである。
だが、企画名のエクストリームが表すように、その挑戦はまさに究極とも言うべきものだった。
この学園祭期間の間、延々と続けていると言えばその壮絶さも分かろうというものだ。
「いらっしゃいませー」
「あ、あの………?」
鷹原・星司(一斤染めを纏う・b05146)にそう伝える。あいにく団長の尾瀬・豹衛(青不動・b03524)は留守で、栞は自分で精一杯大きな声を発する。
「は、発表させてもらいます。今年、皆さんの企画である『エクストリーム・しりとり』は、結社発表部門の2位に入賞されました。おめでとうございます……!」
栞の声と共に、客と団員達から拍手が起こった。
勿論その音も、しりとりの言葉を聞き逃させないように小さなものとなっている。
「今年もしりとりの輪が広がった様で嬉しく思う。普段行っている事と、やっている事は変わらない。だからこそ「結社活動発表」の真なる形だと俺は思う」
「ええっと……卒業生の方、ですか?」
「前団長だ」
栞の言葉に、弘瀬・章人(水練忍者・b09525)は短くそう告げた。
納得の頷きを返す栞に、紅・雪葉(眇・b18452)が楽しそうに語った。
「団員さんも、他のお客さんも……なかなかマニアックな単語を御存知の方が多く、フツウのしりとりより難易度が高く感じられて、面白かったですよ」
「皆さん、博識ですよね」
「その人の個性……っていうことじゃないでしょうか」
団員の鷹原・星司(一斤染めを纏う・b05146)が苦笑気味に言うのに、川満・紅実(花の虹・b16707)が続けた。
栞が周囲で行われているしりとりに耳を澄ますと、主に団員は発言の後に、自分が言った単語に関する解説を加えていることが多い様子だった。確かにこの環境にいれば、博識になるのも当然かも知れない。
島宮・火蓮(ブラッドカバー・b01973)が、こっそりと小声で囁く。
「実は、去年はお客だったんだけどね、楽しかったから団員として入団させてもらったの」
「こちらの企画も、去年に引き続いての入賞ですものね……」
学園祭は結社活動の発表を行う場であるゆえに、こうしてストレートに発表を行う結社にとっては団員を増やすきっかけともなるのだろう。
「言葉は人の意思や想いも繋ぐそうしたことをしりとりを通して感じて欲しいな」
三島・月吉(鬼面鬼心・b05892)の言葉に頷くと、栞は部屋を後にする。
企画が行われている部屋の中では、学園祭の終わりまで力を尽くさんと、しりとりの声が続けられていた。
●審査員特別賞『【Perfect crime!!'08】』
「I can love all nowRYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」
「きゃあっ!?」
その会場から聞こえて来た絶叫と思えるような歌声に、栞は思わず耳を押さえていた。
彼女がやって来た結社【crime−clime】の主催するライブのステージでは、まさに今、学園祭での最終ライブが行われている真っ最中だった。
ステージ上では、元団長の束原・キリヱ(クルエラ・b07703)と西古佐・吠示(セルフで伊達ワル・b00560)、反骨精神の塊といった風情の2人が、競い合うように歌っている。
「し、審査員特別賞をお伝えしようかと思ったんですけど……」
熱烈なファン票からの特別賞。その評価に間違いはなかったようだ。
団長の速水・ヱリザ(セルペンス・b37949)の姿が無いので、後でこっそり伝えよう、などと思いつつ、栞はライブの様子を見守ることにする。
ステージの周囲ではフルーツ缶を使ったカキ氷や、ロコモココナツ丼という栞の聞いたことの無いメニューを扱う屋台もあり、観客達はそれらを味わいつつ、ライブを楽しんでいるようだった。
時折ステージの2人に促されて観客がステージに上がったりもしているが、盛り上がりはステージ前に張られたロープの脇で立っている志野・主税(クリティカルフォーサー・b15493)によってしっかりと制御されている様子だ。
この企画に投じられた票にも、熱いライブとの評価はあったが、観客との一体感があることで、一層その感覚が高められているのだろう。
見ているうちにも、新たにステージに登った観客にキリエがマイクを放り投げて歌うように促したりと、一層その雰囲気は強くなっていた。
「ライブ感覚とか、自分も一体になれるのが、秘訣なのかも知れませんね……」
ラストライブは最高潮に達し、そしてステージと観客とが一体となって行く。
そしてステージ上で歌っていた者達が、観客の中へとダイブ。そして、観客の一人が飛び込んだ歌い手を受け止め、
「……あ」
何か、奇妙な音が聞こえたような気がして栞は一瞬表情を引きつらせた。
「だ、大丈夫ですよね……?」
多少心配ではあるが、周囲も楽しげなので問題は無いだろう。多分。
ステージの裏に回って審査員特別賞受賞の旨を伝える連絡を置き、栞はそっとその場を後にしたのであった。
●第1位『学園祭特別ネトラジ ぼいすらじお放送局!』
「ええと、すいませーん……」
部屋の扉をノックしようかどうか、栞は戸惑いながらもそう呟いた。
何せ相手の部屋は、ラジオの収録を行っているのだ。下手に雑音を入らせてはいけないのではないか。そう逡巡する栞に、龍魔・妖輔(純粋無垢なイジメっ子・b25921)が声をかける。
「どうしたの? 中に何か用?」
「は、はい……! 団員の方ですか?」
「ああ、裏方だけど」
そろそろ慣れて来た栞だが、やはり用件を伝えるのは緊張する。彼女は息を吸い込むと、やや早口に告げた。
「あの、ですね……『ぼいすらじお同好会』さんの企画『学園祭特別ネトラジ ぼいすらじお放送局!』が、結社活動発表部門で、1位になりました」
「……!」
収録中の室内に連絡を取ろうとする妖輔の姿を見つつ、口羽・泰昭(頭に皿なんて無ぇ・b07765)が楽しげに言う。
「学園祭期間中、ほとんど途切れずずっとラジオ放送とか良くやるよなぁ。俺は都合で夜と昼しか聞けなかったが、やっぱ今年も楽しかったぜー♪」
「うちの結社の代表が出たんですよ」
姫宮・心(明日もマのつく女の子・b42378)が嬉しそうに言うのに、栞は首を傾げた。
「団長さんが、ラジオのゲストだったんですか?」
「ああ、ゲストって言うか……」
「リスナー参加型なんですよ」
リスナーがラジオにゲストとして出演することも出来たのだという。
また、別の結社と連携してのラジオドラマ企画など、趣向を凝らした放送内容になっていたようだ。無論、聞ける環境にいなければ聞けないものではあるが、それでも支持を得たことは、この企画が優れたものであることを示していたと言えただろう。
「同好会地下ブースから頑張ったかいがありました! 汗疹できそうだけど」
アイスキャンディーを舐めながら、武笠・城(ナイーブマーチヘア・b25972)はにこやかに笑った。首からかけたタオルは、自身の汗でじっとりと濡れている。暑い部屋にこもってラジオ放送のために働いていたためであろうが、その表情には自分の行いに誇りを持つ者の喜びがあった。
事情を聞いたらしく、忙しげに現れた団長の如月・清和(特撮属性・b00587)に、栞は早速と感想を求める。
「じゅ、受賞、おめでとうございます……それでは、一言お願い出来ますか?」
「魔導特捜ザンガイガーを、よ……!」
そう言いかけて、清和は思いとどまったかのように一つ咳払いすると口調を改めた。
「聞いてくれたリスナー、そしてタイアップしてくれた様々な結社様、みんなありがとう! これからも、ぼいすらじお同好会をよろしくな!」
「おめでとうございます!」
リスナーの一人だというメイド服姿の杜宮・須弥子(にょろっこしゅみタン・b29721)が拍手するのに、近くにいた他のリスナー達も続く。
彼らの喜びを乗せて、ラジオの音は流れて行くのだった。
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