●はじめてのクリスマス。のはずが…
クリスマス。
それは特別な日。
それが恋人同士ともなると、もっと特別な日になるのは確か。
もちろんほのかな期待だってしちゃう。
アジーンもクリスマスという特別な日に心を弾ませ、ルシェイメアとめくるめる夜を過ごす計画。
それが実行されたのなら、その日は記念日になるくらい特別だったのに……。
クリスマスディナーが用意された、テーブルを挟んで向き合うルシェイメアとアジーン。
仲良く食事をしているのかと思ったのだが、すこし雰囲気が違う。穏やかなクリスマスディナーの様子ではない。
「いけませんよ、そのような事は自立した一人前の大人になってからです」
ルシェイメアがアジーンからいかがわしい事の誘いを受けると、静かにアジーンを席につかせお説教をはじめる。
「私達はまだまだ半人前なのですから、厳に慎むべきなのです」
(「せっかくのクリスマスなのになぁ、何故このようなことになるんだ……」)
俯き加減でずっとルシェイメアのお説教を聞いているアジーンの、心の中の呟き。
ちらりとルシェイメアを盗み見てみる。
ぴっと人差し指を立て、真っ直ぐに自分に視線を向け、厳しい口調で説教が続いていく。それはまだ続きそうなので、もう少し黙って聞いておく。
「そもそもクリスマスと言うのは聖者の生誕を祝うものだと聞きましたが、そのような日には日頃よりもさらに慎まなくてはならないと……」
いつまでも続きそうなルシェイメアのお説教。
このままでは、いつまでたってもこのまま、ルシェイメアのお説教を聞き続けなければならない様なきがする。
「解ったから、もう許してくれないか」
アジーンがルシェイメアに、そっと声を掛けてみる。
すると、ルシェイメアもほっと吐息を一つはき出して、厳しかった視線が和らぎ、少し目を細めアジーンを見る。
「今夜は、これくらいにしてあげます。料理も冷めてしまいますから」
ルシェイメアはアジーンに一言釘を刺してから、笑いかける。
チキンを切り分け、二人のクリスマスパーティーが始まる。
「好きだ、ルーシー。ずっとこれからも」
「私も、好きですよ。貴女のこと」
食事をはじめる前、アジーンがこれだけは彼女に伝えたいと、真っ直ぐにルシェイメアを見て告げる言葉。
それにさっきまでの厳しい視線ではなく、優しい微笑みで返すルシェイメア。
ようやく二人のクリスマスが始まった。
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