星宮・雪羽 & 合瀬・瑠羽

●聖夜の贈り(拾い)物

 クリスマスの夜、雪は静かに降り続けていた。
 うっすらと積もった雪の中を踏みしめながら、瑠羽は人気のない街を歩いていた。ふと、目の前の電柱に視線をやれば、その灯りの下に小さなダンボール箱が1つ転がって……いや。
 ダンボールには『メリークリスマス。拾って下さい』とマジックで書いてあった。そして、その中には、まるでスポットライトのように電灯の明かりを浴びている、一匹の小さな猫の姿があった。
 青い瞳のその猫は「にゃあ」と小さく鳴くと、瑠羽のことをじーっと見上げた。目をきらきら輝かせて見つめてくるその顔は、まるで『拾ってください』とアピールするかのよう。いや、『拾ってくれるよね?』と、確信を持って瑠羽を見つめているようにすら感じる。
「もしかして……」
 何でこんな所に、と少し驚いた顔をしながら呟く瑠羽。彼の言葉に、猫は満面の笑みを浮かべた。「さあ早く拾って?」と、それを確信しているかのような仕草をしながら。
「拾え、って事か? ……こんな所に置いていくわけにはいかないか」
 こんな寒い夜のことだ。放っておけば風邪を引いてしまう。実際、その体が小さく震えている事に気付いて、瑠羽はその手を差し伸べた。彼の反応に、猫は嬉しそうに「にぃ」と鳴く。
 そのまま瑠羽の腕に飛び込もうとした子猫だが、忘れ物に気付いたかような様子で、慌てて段ボールの中で前足を動かした。すると敷いていた毛布の下から、小さなプレゼントの箱が転がり出る。猫は、それを器用に引っ掛けると、瑠羽の手の平に乗せた。
「これ……俺に?」
 半ば呆れたような、驚いたような顔をする瑠羽に、猫はこくりと頷き返す。彼がそれをコートのポケットにしまうのを見届けてから、猫はようやく彼の腕に飛び移った。
「……やれやれ」
 苦笑交じりに呟いて、そう瑠羽は猫に微笑みかける。まるで甘えるように寄りかかってくる猫を大事に抱きかかえながら、瑠羽はまたゆっくりと歩き出す。
(「……早く帰ろう」)
 猫が寒くないようにコートで風を遮りながら、瑠羽は次第に足を速める。体が凍えてしまう前に、早く家に帰りつけるようにと。

 家に着いたら、すぐに部屋の中を暖めて、それから、それから……。
 こいつを何とかしないと、と思う瑠羽だった。




イラストレーター名:asahi