潦・ともの & ヴァナディース・ヴァーサ

●ARIA

 大好きなヴァナディースへのクリスマスプレゼントを考えるともの。
 あれでもない、これでもない。
 大好きな彼女へのプレゼントだけにとても悩んで、酷く考え込んでしまう。
 眉間に皺が寄り始めたとき、ふと視界に入った一台のピアノ。
 思わず首を傾げてしまう。だって、うちにはもうピアノはなかったはず。
「あ、このピアノ……マムの実家にあったのだ」
 どこか見覚えのあるピアノ。それは母親の生まれ育った家にあったもの。いつも海外を飛び回っている母親が、この間帰ってきたときに持ってきてくれたのだろうか。
 そんな事をのんびりと考えていると、頬が赤くなった。
「て、行動読まれてる!?」
 ピアノの蓋を開けて、指先で鍵盤を一つ弾いてみる。
 ポーン。
 軽やかな音は昔、母親にピアノを教えて貰っていた頃を思い出す。
 今は海外にいる、愛しい母親へ感謝をすると、とものは慌ただしく準備を始める。
 とびきりのクリスマスプレゼントを大事なヴァナディースに渡すために。

 白のニットワンピース姿の大事なヴァナディースが、ピアノの前に座ったともの傍らに立つ。
 静かにとものの指が鍵盤の上を踊り、柔らかな旋律が始まる。
 これがとものからヴァナディースへのクリスマスプレゼント。
 ヴァナディースへの想いを込めてピアノでの弾き語り。
 静かで優しいアリアは、小さい頃、母親が良く弾いてくれて、教えてくれた曲。
 いつもはお子様で、ふざけてばかりいるけれども、今日は違う。
 大切に想うから、その想いを乗せてピアノと共に歌う。
 静かに耳を傾けるヴァナディースの長くて細い髪の毛が、さらりと落ちる。
 曲が終われば、ヴァナディースが嬉しそうな笑顔で拍手を送る。
「ありがとうねぇ、ともの」
 素敵なアリア。
 いい音ねぇ。
 いい声ねぇ。
 いい詞ねぇ。
 自分のためにとものが奏でてくれるその全てが愛しい。
 とものの心も、体も、歌も想いも、その全てが自分のものだと感じられる、愛しさに満ちたアリア。
「お返しに、私のすべてをあげる」
 ヴァナディースの言葉に、とものも笑顔を返す。

 あなたと出会えた幸せに。
 あなたと過ごせるときめきに。
 あなたとみつける素敵に。

「メリー・クリスマス♪」




イラストレーター名:おちゃかいしんや