●メリークリスマス
カイルはエルと一緒に雪合戦をしようと、雪野原へと彼女を誘った。
ここは彼氏らしく、彼女のエルには手を抜いてやろうなんて考えていると、威勢の良いエルの声が聞こえてきた。
「カイルん! 覚悟なのです!」
「エル! オマエ!」
声と共に雪球が勢いよく飛んできて、カイルの顔に命中。
思わず手に持った、雪球をムキになって彼女へと投げる。もちろんしっかりとぶつけるために。
そうするとエルもまた、思いっきり雪球をカイルめがけて投げてくる。
お互い必死になって、相手に投げる雪球。
そんな事に夢中になっている中、カイルが何かを思いだす。
(「あれ? なんでこんな事になってるんだよっ!!」)
必死に雪遊びをしたかったワケじゃない。
もっと別の。
もっと特別な事。
しかし先ほどまで勢いよくした雪合戦の結果、体は心地よい疲労感に覆われて、カイルもエルも座り込んでいる状態。
ちらりとカイルがエルの方を見る。
そこで何か思いついたらしく、片手をポケットに突っ込んでごそごそやる。
もちろんエルにはばれない様に、さりげなく彼女に背中を向けて。
小さな何かをそっと、雪球の中に忍ばせて。
勢いよく振り返ると、その雪球をエルに向かって投げる。
「よし! 第2ラウンドだ!」
先手必勝とばかりに、少し強めにエルへと投げた雪球は、咄嗟に出したエルの掌の上で崩れた。
エルの掌の上、雪の光と陽の光に、キラキラと光る小さな指輪。それはふたつ。
猫目石がついたシンプルなペアリング。
その指輪を確認して、エルが勢いよく指輪から視線をカイルへと向ける。
その視線に気がついたカイルは軽くそっぽを向くも、その頬は少し赤い。
「その、なんだ。メリークリスマス」
「わ、ありがとうなのです、カイルん!」
ぼそっとカイルが呟くのと、エルか駆け寄り彼の頬に口づけをするのは同時。
「ば、バカ!!」
エルからキスされて本当は嬉しいのに、その想いとは反対の言葉を口にしてしまう。
やっぱり気の利いた言葉のひとつも言えなくて。
ちょっとバツが悪いかなって思うけど、エルの嬉しそうな笑顔をみるとそれだけでこっちも嬉しいのは事実。
口では言えない分、彼女に贈った指輪に想いを込めた。
I'll always be with you.
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