三神・ヤマト & 北村・焦行

●確かに、そこにあるもの

「ここが、ヤマトさんのお家なんですね……」
 初めて訪れる恋人の家。焦行は少しそわそわした様子で「お邪魔します」と中に入った。ヤマトに案内されるまま彼の部屋を訪れれば、室内には必要な家具や家電製品が綺麗に整えられていた。
 付き合い始めて2年目の冬。初めての出来事にどきどきを隠せない焦行の様子を、ヤマトは微笑ましく見つめて……でも、彼自身も緊張しないといえば嘘だった。だって、大切な彼女を自分の部屋に招き入れるのだから。
「さっきのイルミネーション、素敵でしたね」
「ああ。でも、寒くなかったか? ……何か暖かいものを用意しよう」
 先程食事を終えたばかりの二人は、マグカップを手に他愛の無い話に花を咲かす。今夜一緒に過ごした食事のこと、少し前に二人で築いた思い出。互いの日常のちょっとした出来事……。
「……ヤマトさん?」
「ん? ああ、いや……」
 焦行の言葉にヤマトは軽く首を振った。でも、重たげな瞼の様子は誤魔化せない。食事の後だから、だろうか。ゆるゆると睡魔に襲われている様子のヤマトに、焦行はくすっと笑って。
「膝枕、しましょうか?」
 ちょっと茶目っ気を出して尋ねる焦行に、ヤマトは一呼吸おいて「じゃあ」と頷き返す。普段なら、そうは返さなかったかもしれない。でも、今夜はクリスマス。今日は、特別だ。
 だから、彼女の膝に頭を預けて、その顔を見上げる。
 じっと見つめて……そっと伸ばした手で、彼女の頬に触れた。
 微笑みかければ、戻る笑み。少し照れ臭くも思うけれど、でも……それは、たまらなく、幸せなこと。
 大切な人が、すぐ傍にいて、そのぬくもりを感じられること。ゆっくりと流れていく穏やかな時間は、そのまま愛おしさに比例する。
 愛しい人と――ずっと、一緒に。

 これからもずっとずっと、一緒にいられるように願いながら、焦行は微笑みを深めて。
 そんな彼女の微笑みを永遠に護ってみせると、そうヤマトは決意を新たにして。

 見つめ合う二人の間に流れる時間は、たまらなく穏やかで、そして幸福に満ちていた。




イラストレーター名:Asago