●たとえば、こんな2人の一幕
クリスマスの当日。
千歳と理緒は大きな毛布を一緒に被り、人気の無い場所でのんびりと雪を眺めていた。
『誰かを好きになるという事を知って欲しい』という理緒の言葉がキッカケで、付き合う事になった、ふたり。
しかし、傍目からは友達以上恋人未満に見られている。
それだけ、ふたりはピュアな関係。
「……雪が綺麗だね」
静かに空を眺めながら、理緒が幸せそうな表情を浮かべた。
空から降ってきた雪は、ひらひらと地上に舞い降り、辺りの景色を真っ白に染めていく。
今日がクリスマスだからかも知れないが、イルミネーションの光を浴び、いつもより雪が綺麗に見えている。
「まるでモーラットみたいですね」
モーラットの姿と雪を重ね合わせ、千歳が自分の想像を脳裏に描いた。
空から舞い降りた沢山のモーラット達。
モーラット達が集まって出来た雪だるま。
沢山のモーラット達が集まって出来た、かまくら。
巷では子供達が雪合戦ならぬ、モーラット合戦を行っている。
それだけモーラットが沢山いれば、思いっきり飛び込んで、至福の時を過ごせるかも知れない。
(「……まさに夢の楽園ですね」)
その間も千歳の想像が、どんどん膨らんでいく。
もちろん、すべて彼女の想像でしかないので、実際にはあり得ない。
「何か考えていたの?」
不思議そうに首を傾げ、理緒が彼女の顔を覗き込む。
先程から彼女が妙に幸せそうな表情を浮かべていたため、少し気になったようである。
「いえ、ちょっとモーラットの事を」
恥ずかしそうに頬を染め、千歳がさらりと答えを返す。
もう少し詳しく説明しようと思ったが、理緒にはそれだけで十分だった。
「ははっ、モーラットか。何だか千歳らしいね」
苦笑いを浮かべながら、理緒が彼女と一緒に空を見上げる。
そして、ふたりの時間がゆったりと過ぎていった。
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