●兄妹のクリスマス
クリスマスの遊園地は、いつにも増してカップル達で賑わっていた。
その中に、ちょっぴり奇妙なカップルの姿があった。
黒いスーツにサングラス、まさに「黒服」という言葉がピッタリの青年、翔と、そんな彼に腕を絡めて引っ張り回す、ハーフコートにミニスカートの元気少女、昴。
傍目には、強面青年と美少女という、ちょっとアンバランスながらそれなりに幸せそうなカップルと思われているであろうこの2人、実ははこう見えても兄妹なのである。
……尤も妹の方は、正しくは「女装の似合う男の娘」なのだが、そんなことは、取るに足らない小さな誤差。
とにかく彼らは、とても仲の良い兄妹なのだ。
「やれやれ、せっかくのクリスマスに兄妹でデートか。恋人はいないのか? 昴」
妹もそろそろ年頃な筈なんだがと、翔が軽く溜息をつく。
「何言ってるんですか? 恋人のいない哀れな兄さんの為に、こうしてかわいい妹が……」
「そうか。帰っていいな」
本気なのか冗談なのか。昴はちょっと悪戯っぽく笑うと、翔を見上げてそう言った。が、昴がすべてを言い切らぬうちに、翔は眉と口角をピクリと動かし、絡められていた昴の腕を軽く振り解こうとした。
「ああ、嘘! 冗談です! 恋人のいない哀れな妹の為に、デートに付き合ってください」
昴は慌てて訂正を入れると、離されそうになった腕を強く掴んだ。
その慌てっぷりに、翔の表情がふっと和らぐ。
「やれやれ、しょうがねぇ奴だな。何から乗るんだ?」
「そうですねぇ、あ、アレに乗りましょう☆」
ほんの少し困ったような、けれど優しい笑みを浮かべる翔を見て、昴も嬉しそうに笑う。
そして翔の腕に自分の腕をしっかり絡ませ直すと、ひとつのアトラクションを指差し、早速そこへと走り出した。
「ほら兄さん、早く並ばないと乗れなくなっちゃいますよ」
「おいおい、そんなに慌てなくても、まだ時間は十分にあるだろ……」
「ダメです! 今日はひとつでも多く乗るんですから!」
ジェットコースター、観覧車、回転木馬にコーヒーカップ。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎていってしまうから、1分1秒だって無駄な時間を過ごしたくない。
「ねえ兄さん、恐かったら『キャー!』って言って抱きついてもいいですよね?」
「……程々にな」
クリスマスデートは始まったばかり。
今日一日は恋人気分で、時間の許す限り思いっきり楽しもう♪
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