綾島・八雲 & 八雲の真蜘蛛童

●野湯と雪夜と俺の相棒

 クリスマス。
 それはとても特別な日。
 蜘蛛童の「まお」と、一緒にのんびりと過ごせる場所として、八雲は温泉を思いついた。
 しかし普通の温泉宿ではまおは入る事ができない。
 そこで八雲が選んだのは野湯。
 ネットで調べたこの場所は、かつてはそこそこ人も来ていたらしく、湯治客用の小さな小屋も残っていた。
「これなら一泊出来るな♪」
 まおが八雲の言葉に応える様に、彼の方を見上げる。
 最初はまおと一緒に入っていた八雲だが、一向にまおが上がる気配がなく。このまま自分がのぼせてしまうと、先に上がり浴衣に着替え湯船の縁に腰を下ろす。いくら温泉で温まったとはいえ、冬の夜。次第に冷え込んでくるから、足は湯船の中につけておく。
 その間もまおといえば、温泉をとても満喫している様子。
 家よりも格段に大きい湯船にぷかーっと浮かび、目の前にあるプラスティック製のアヒルちゃんを牙でつつきくるくる回している。やがてアヒルちゃんが回るのをやめたら、また牙でつっつき回す。
 そんなまおの様子に八雲が目を細め、ゆっくりと話しかける。
「……俺が銀誓館の一員になってから、いろんなことがあったな」
 八雲の声が聞こえ、まおが八雲の方に顔を上げる。
「お前と共に生きるため元来の力を捨てて力を得たこと。その為の一時の別離がすんげー寂しかったこと」
 まおがこちらを見上げると、八雲もその視線に合わせて、普段通りだけれども、どこか静かに言葉を続けていく。
 今年1年。本当に色んな事があった。
 そう、その中でも今でも鮮明に思い出す事のできる出来事……。
「……お前が起きない眠りについて、悪夢の元凶と、お前自身と刃を交えたこと」
 その時の事を思い出すと、八雲は目を伏せた。
 このまま起きないかと思ったし、まおと刃を交える事になるとも思っていなかった。
 だが、今はこうして一緒にいて、一緒に温泉を楽しんでいる。
「他にも多々あるが、お前に関わる事が俺にとっちゃ一番大きいんでな」
 そうしてにっと、相棒に笑いかける。

「今年はお疲れ様だぜ……『まお』」
 かけるのはねぎらいの言葉。
 来年も、そのまた来年も、それからその先もずっと。
 共にありたいと思うから。

 これからもよろしくな。

 言葉にするのは何となく照れるから。まおの首にかけられ、湯船に浮かんだ迷子札とお揃いの、自分の首に掛っている迷子札をそっと指でなぞり、相棒へと笑いかけた。




イラストレーター名:Garry