●小さな奇跡
屋上から見る、クリスマスの星空は、普段見る星空よりも直ぐ近くに感じる。
屋上の貯水タンクの裏側で並んで、その星空を見上げる忍とステラ。
貯水タンクを隔てて、反対側から学園の生徒達が騒いでいる賑やかな声が聞こえてくるけど、二人は静かに夜空を眺めていた。
思い出すのは出会ったときの事。
それはほんの些細な事。
ゴーストタウンの後のほんの少しだけ交わした他愛もない会話。
それが今は、愛しい存在になっている。
「俺等が初めて会った時の事を思い出してね」
「どうしてまた?」
忍がステラの方を見ながら囁く。その囁き声に誘われて、少し遅れてステラが忍の方に振り返る。
ステラは、きょとんとして、不思議そうに忍の瞳を見つめていた。
その表情。その仕草。それら全てが小動物の様で、目を離したとたんどこかに行ってしまいそうな気がして、意識とは別に忍の体が勝手に動いた。
彼女の体を後ろから手を回し抱きしめる。
「ちょ、ちょっとどうしたの!?」
「ん……なんとなく」
突然の出来事に、ステラは驚きの表情を見せたけどそれは一瞬で、すぐに小さく微笑んで言葉を続ける。
「……ねえ、凄いと思わない? 生まれた場所も時間も違うのに」
瞳を閉じて、囁くほど小さな声で。
「それでも、私達は出会えた。この銀誓館という沢山の星々の中から。私を見つけてくれて本当にありがとう」
「まいったなぁ、コレは」
「ん?」
「似たような事を先に言われちゃったよ……ステラ」
ステラの言葉を聞いて、困った様な何とも言えない笑顔を浮べる忍。自分も彼女と同じ事を言おうとしていたのに、先に言われてしまったから。
けれども忍の顔から笑顔が消えて、真剣な表情になる。
「好きだよ」
「私も」
真摯に告げる忍の言葉に返すステラ。その後、吐息をはき出すのも惜しいぐらいに、すぐに彼女の言葉が続く。
「私も忍さんが好き」
それは忍が待ちわびた言葉。
ずっと聞き出せなくて、それでも聞きたかった。
たった一言。
そのままどちらからともなく、ふたりは抱き合う。
交わす言葉はなかったけど、直ぐ傍で感じる相手の体温がとても心地よく、降り始めた雪の中でも、寒くはなかった。
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