●クリスマス・ライヴ
影斗は、音楽室の前に立っていた。
開けられた扉。けれど明かりは点いていない。
理尋から、クリスマスプレゼントを渡したいと言われて来たというのに。
影斗は軽く首を傾げ、教室の中を見回した。
その視線が、ピアノの前でふと止まる。
「来てくれてありがとうございます。今日は、私から音楽をプレゼントしたいと思いまして」
窓から差し込む月明かりが、ピアノの傍に立つ理尋の姿を浮かび上がらせる。
影斗は少し驚きつつも、彼女に促されるままに、近くの椅子に腰掛けた。
それを確認した理尋は、深く一礼してからピアノの前に座り、クリスマスソングの弾き語りをはじめた。
耳に馴染む、定番のクリスマスソングは、時に楽しく、時に優しい。
時折音が飛んでいたりもしたけれど、それに合わせた理尋の歌声は、とても澄んでいて美しかった。
その姿が、窓からの月明かりと相俟って、神秘的な雰囲気を醸し出す。
影斗は心奪われたかのように、その姿に見入っていた。
演奏が一旦止まる。
「最後に、今日のために作った、私のオリジナルの歌を……聴いて下さい」
ピアノの音が、歌声が、物語を紡ぎ出す。
たくさんの出会いと別れ。
将来に対する漠然とした不安。
能力者であるということ……。
そして……影斗と一緒になれたこと……。
喜び、哀しみ、すべての想いが込められた旋律。
一音ごとに力強さと輝きを増す理尋の姿。
────♪
最後の音が紡がれて、音楽室を暫し静寂が包み込む。
影斗は椅子から立ち上がり、理尋に惜しみない拍手を送った。
理尋もそれに応えるように、ピアノの傍らで一礼する。
「素敵なプレゼント、本当にありがとう」
理尋のもとへ歩み寄り、感謝の言葉を述べる影斗。
「少し間違えましたけど……喜んでもらえて私もうれしいです」
その言葉に、呼吸をゆっくり整えながら、理尋も喜びの笑みを浮かべた。
……が、その唇を、不意に影斗のそれが塞いだ。
ほぼ同時に、窓の外に見えていたクリスマスツリーに、あたたかな光が灯された。
真っ暗な音楽室の中に、月とツリーの光が差し込む。
恋人達を、優しく包み込むように。
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