霧峰・灰十 & 深田瀬・せり

●白と黒との逢瀬〜甘い休日〜

 しんと静まりかえった部屋。
 可愛らしいクリスマスケーキは、切り取られそのひとつが灰十の持つ、皿の上にある。
 その灰十の膝の上には横抱きにされたせり。
 灰十の事は嫌いではない。
 けど好きっていうのはよく分らない。でも、一緒にいるのは楽しくてとても嬉しい。
 すぐ近くの灰十の顔を盗み見て、そんな事を思うせりの視線が皿の上のケーキに落とされる。
「……灰十、ケーキが食べたいです」
「……ほら、あーん」
 せりの言葉に、灰十は皿の上のケーキをフォークで切り分け、真顔で彼女の口元へと運ぶ。
「……あーん……」
 若干の恥じらいを見せたものの、せりは素直にぱくりと差し出されたケーキを食べる。
 ほら。まただ、と、せりは思う。
 手を繋がれたらどきどきして、頭を撫でられたらほわほわして……。
 でも一番じゃないと思い知らされてしまうから、苦しくて、泣きたくなって……でもでも、もやもやするのはもっとイヤ。
 こういう気持ちがよく分らない。
 こんな気持ちが心の中を一杯にするのが怖い……そうだと分っていても一緒にいたい。
 こんなに近い距離にいて、もしかしたら自分の息づかいまで聞こえてしまいそうなのに、時折とても遠く感じる。
 そんな事を考えていたせりだったけど、考えるのは疲れると小さくため息をつき、ちらりとまた灰十を盗み見る。
 と、せりの視線と灰十の視線が絡み合った。
「……どうした?」
「……別に、何でも……ないのです」
 考え事をしていたせりにきょとんとした灰十。その言葉がなんとなく自分の想いが伝わって無さそうで、思わずせりはぷいっとそっぽを向く。
 灰十は何でせりがそっぽをむいたのか分からなかったけれども、こんな風に同じ時間を共有できる誰かがいることが嬉しいかった。
 以前の自分なら考えられなかった事で、この時間がたとえ僅かしかなかったとしても、せりと一緒に過ごせるこの時間を大切にしなくてはいけないと、せりの方に視線を向けるけど、相変わらず彼女はそっぽをむいたまま。

 互いに信頼を寄せ合える関係。
 それは家族のようでもあり、兄妹のようでもある。
 もしかしたらある意味、恋人以上なのかもしれないけど……。

 灰十はせりの心の中を知ってか知らずか、彼女の腰を抱く腕に少しだけ力を込めた。




イラストレーター名:kaz