鷺深・流維 & 鏡・流刃

●Merry Christmas〜力関係の縮図?〜

「人手いるようだし手伝い名乗り出たはいいものの……」
「荷物持ちがいてくれて助かったわー」
 トナカイの着ぐるみを着込み、流刃はポツリと呟く。両手に紙製の買い物袋を抱え、進む前方には女性用のサンタ服に身を包んだ流維が買い物メモを片手に歩いていた。
「これで心置きなく買い物ができるわ」
 手に持つ物はメモのみの流維は足取りも軽く、既に幾つか買い込んでいることすらスルーして次の店へと視線を定める。足を速めたサンタとトナカイとの差は更に開く。

 数分後、流刃が追い着く間に買い物を済ませたらしく、気の毒にトナカイを見つめる店員が追加の荷物を手渡すが。
「せっかくだし年末の必要なものも仕入れとこうかしら」
「容赦ないね、この子」
 サンタは更に追い打つ気満々。
「荷物多いわ重いわこんなに買うか食うヤツいるのかいるわけねーだろって思ったら参加面子考えたらいるじゃねーか世界の敵め」
「……にしてもやたら似合ってるしあったかそうだわねトナカイ」
 一息で吐き出した疑問と答えと罵声をやはり聞かなかったことにしながら、流維は遅れがちなトナカイへ視線を向ける。当人は暖かいどころか大荷物を持っての行軍のせいで既に汗びっしょりなのだか、気づいているのか。
「猫なんだし猫の方が良かった気がするけど……」
「まぁ、いいか」
 残念そうにブツブツと呟く流維の呟きをこちらも聞き流して、気を取り直した流刃は前を行くサンタを見た。
(「にしても……孫にも衣装?」)
 脳内に浮かんだ感想の馬子が何故か間違っていたのは意図的な物なのか。いずれにしても、口に出したら殺られると言うのが流刃の認識だったし、言葉にするつもりさえなかったのだからどうでも良いのかもしれない。むしろ。
「む……何か不穏な気配っ」
 やたら鋭いサンタの勘に怯えてそれどころでは無かったのだから。もっとも、身体の震えと緊張も視線が外れれば自然に消えて、再び歩き出すミニスカサンタの背を眺め、流刃は思う。
(「いつも大人しくしてればねー。全く想像できんけどな!」)
 口から漏れた白いため息は、どちらの意味で出た物なのか。息を吐き出した口が自然と笑みの形をとる。
「ま、いいもの見れたという事でもうちょい頑張りますかね」
「む?」
 怪訝な顔をして立ち止まった流維の元へとトナカイは歩き出す。頑張れ、流刃。




イラストレーター名:kaz