龍薙・我妻 & 風音・瑠璃羽

●メリークリスマス♪瑠璃羽お嬢様♪♪

 今日はクリスマスイブだというのに、我妻は普段と変わらずバイト先の執事喫茶にいた。
 今頃は銀誓館ではパーティーが盛り上がっている頃だろうかと、時計を見るものの、すぐに予約でいっぱいの店内に視線をもどし、仕事に取りかかる。
 今日の予約の確認をする。
 予約台帳を指でなぞっていくと、ひとつの名前の所で指を止めた。
 『風音瑠璃羽』
 大好きな彼女の名前。
 本当なら、一緒にクリスマスを過ごすはずだったのだけれども、いろんな事情が重なり、それならと彼女をバイト先に誘う事にしたのだった。

 扉が開く音がして、そちらに視線を向ければ、オフショルダーのフリルがかわいい真紅のワンピースを着た瑠璃羽が、緊張した面持ちで立っている。
 彼女の左胸には青い薔薇が飾られ、彼女の藍色の髪に良く映えていた。
「おかえりなさいませ、お嬢様♪」
 我妻の優雅な出迎えに瑠璃羽は耳まで真っ赤にして、ただ黙ってコクコクと頷くしかなかった。
 手と足が同時に動く様子に、彼女が緊張しているのが分かると、我妻は彼女の手を取り、席まで案内する。
 瑠璃羽を席に座らせると、用意しておいたクリスマスショートケーキと、彼女が大好きな黒糖入りミルクティーを用意する。
 それはとても慣れた手つきで、テキパキしている。
 普段となにも変わらないはずなのに、瑠璃羽には普段とは違う我妻を見ている様で、少しこそばゆい感じがして、不思議な気分。
 けれども彼のまた違った、一面を見れて嬉しいのも事実。
 最初はケーキを食べるもの、紅茶を飲むのも、むしろ彼の顔さえ見るのも緊張していた瑠璃羽だったけど、時間が経つにつれてその緊張が少しずつ和らいでいく。
 こわばっていた表情には、柔らかい笑顔を浮かび、すこしずつ我妻との会話も弾みだす。
 それは大好きなものが出てきた事と、何よりも大好きな我妻が傍にいてくれるから。
 初めて好きなった女性との、初めて一緒に過ごすクリスマスは、我妻にとってもとても嬉しい事で、自分がいて彼女が笑顔になってくれるのがなによりも嬉しい。
 そんな我妻に、緊張の解けた瑠璃羽が満面の笑みを向ける。
「ありがとう。そしてメリークリスマス、あずまくん♪」
 その一言が、我妻にはとても嬉しくて、瑠璃羽に負けないくらいの満面の笑みを向けた。



イラストレーター名:シラエ