ルフィナス・ファルナール & フリック・バーンハルド

●ちょっとドッキリ☆Merry X'mas

(「今日はクリスマスにゃ♪」)
 白い壁で、机とソファーがあるだけの質素な部屋。ただ、部屋の隅に飾られたクリスマスツリーは今日がいつもとは違う特別な日であることをルフィナスに教えてくれる。何だか特別な気分にさせてくれる日。
「にょ?」
 時折聞こえる物音に耳を澄ますのは、仕事に出かけたフリック……婚約者が帰ってくるのを待っているからだ。
「なるべく早く帰るって言ってたけど……」
 ポツリと呟き、壁を見ても時計はない。いや、時刻など関係ないのだ。
(「まぁでも、いつ帰ってきても計画はしっかり実行するのにゃ!」)
 ぐっと拳を握りしめ、決心したルフィナスはリビングから移動すると、自らの衣服へと手をかける。
「にゅふふ♪」
 悪戯っぽい笑みを浮かべて服を脱ぎながら、視線を注ぐ先には買い物袋が。計画の準備は着々と進んでいる。

(「……こんな日に仕事とは」)
 一方でフリックは帰路を急いでいた。心中を占めるのは婚約者のことと、もう一つ。
「……日付が変わる前に、プレゼントが渡せそうだな」
 偶然視界に入った時計を一瞥して、フリックは夜道を駆ける。幸いにも、仕事は思ったより早く片付いた。ただ、1秒でも早くと駆り立てる思いは自然と足を速めさせる。
「ただいま。……フィーナ」
 気がつけば見慣れた戸口を身体は既にくぐっていて。帰宅を告げる言葉に続いて婚約者の名を呼んだ。
「フィーナ、居ないのか?」
 ただ、不思議なのは呼ぶ声に反応がないこと。
「おかえりなさいにゃー!」
「っ、な……?!」
 訝しげにリビングへと足を踏み入れるのと、婚約者本人の襲撃はほぼ同時だった。
「……お前、それ……」
「にゃ? クリスマスだから、わざわざ買ってきちゃったにゃ♪」
 完璧な奇襲となった抱きつきに面を喰らいながらも、思わず目が向いた赤のサンタ服にルフィナスは上機嫌で答える。抱きついた拍子に白い毛玉の付いた赤い帽子が床に落ちるが、かぶっていた当人は気づいていないのか。
「メリークリスマスにゃ、フリックさん♪」
 指摘されて帽子を拾ったルフィナスは机に置いていたプレゼントを婚約者へと差し出し、フリックもまた持っていたプレゼントを手渡す。二人が相手に贈った品はどちらも指輪。
「……お返しだ」
 先ほど受けた奇襲のお返しと言うには優しげな笑顔で唐突に婚約者を抱きしめ、フリックは相手の唇に自身の唇を重ねた。浮かべた笑みはルフィナスにしか見せないもので、二人のクリスマスは二人だけの時間。暖かさと優しさを伴った時間はゆっくりと流れて行く、クリスマスが終わるまで。




イラストレーター名:笹井サキ