風音・瑠璃羽 & 龍薙・我妻

●SweetーKiss

 毎年のようにやってくるクリスマス、だけどこんなにも待ち遠しかったのは初めてかもしれない。跳ねるように楽しげに歩く瑠璃羽は何度も白い封筒がちゃんと入っているか確認する。小さなピンクのシールで封をした封筒には瑠璃羽の気持ちが詰まっている。ドキドキしながらも二人で過ごす初めてのクリスマスを過ごそうとツリーへ急ぐ瑠璃羽、待たせたく無くて急ぐ彼女は、反対側から来る黒い人影を見付けて大きく手を振った。
「先に待っていようと思ったのに……ふふふ、お互い気が合う証拠でしょうかね」
 先に来て待っていようと早めにツリーに向かった我妻は、丁度反対側から来た瑠璃羽に手を振り返す。お互い同じ事を思っていた、ただそれだけでも我妻の心の中に暖かいものが芽生えた。

 手を後ろに回し瑠璃羽は少し俯き加減で足を止める。少し不安の色が乗った瞳には黒髪の恋人の顔しか映っていない。
「伝えたい言葉いっぱいすぎて……」
 カードを取り出しとうつむき加減のまま少し上目遣いで自分のことを見る瑠璃羽が可愛くてしょうがなかった。
「私の大好きの気持ち、受け取ってくれる?」
 何も言わずにカードを受け取る。照れながらも差し出された素直な気持ちがつづられたカードは我妻の宝物になりそうだ。大切に瑠璃羽のカードをしまうと自分のカードを取り出した。
「俺の思いも……受け取ってくれますか」
 シンプルな封筒に包まれたカードを瑠璃羽はおそるおそる受け取る。渡されたカードを開くと二匹のモーラットが飛び出した。白い雪の中で戯れるモーラットは飛び出す絵本のようにポップアップされ可愛らしさに、緊張していた瑠璃羽の顔がほころんだ。
 字が書かれていない我妻のカード、なにも書いていなくても我妻の想いはしっかりと瑠璃羽の心に届く。ここに書かれるはずのメッセージは、これから書ききれないほどに伝えられる。
「えっと……お返しにキス、するんだよね」
 降り積もる雪の中に輝くクリスマスツリーの下で、カードを渡しお礼にキスをする。永遠に結ばれるという伝説をかなえるためには恋人に口付けをしなくてはいけない。そう意識すると、瑠璃羽は急に恥かしくてどうしたら良いのかわからなくなる。戸惑う恋人に優しい笑みを浮かべると自分がしていた白いマフラーを、そっと瑠璃羽の首にも掛ける。プレゼントにあげたマフラーはほっとするような暖かさで瑠璃羽を包み込む。そのまま瑠璃羽を我妻はそっと抱き寄せる。全ての想いを伝えるかのように。
 真っ赤な顔で目を閉じる恋人に微笑むと、そっと顔を近づける。
 二人で過ごす初めてのクリスマスのキスは何よりも幸せをもたらしてくれる。自然に抱き合う二人をベツレヘムの星と静かに降る雪が見守っていた。




イラストレーター名:咲夜みう