●屋根の上のX'mas Night
夜景の綺麗な、とっておきの場所がある。
そう言って、太一狼は月を呼びだした。
人のいない最高の場所だからと言われ、喜んで彼の元へと向かった月が見たものは、何とアパートに立て掛けられた梯子だった。
「僕の大好きなアパートの、僕が大好きな空に近い場所だから」
これ程いい場所は他にないと、笑いながら先に梯子を登る太一狼。
(「ほんとかなぁ……」)
ちょっと疑心暗鬼になりつつも、太一狼に手を引かれ、月も屋根の上へと登る。
するとそこには……。
「……、………ぉ、ぉお?!」
眼下に広がる、キラキラ光り輝く夜景。
「僕のとっておきだけど……どうかな?」
随分寒いし高いから、月は嫌いかもしれないな……。
太一狼はそんなことを考えながら、月の顔を覗き込んだ。
けれど、そこにあった月の顔は、とても嬉しそうな笑みで満ちていて、彼はほっと胸を撫で下ろした。
見下ろせば、輝く夜景。
見上げれば、満天の星。
「幸せな時間をありがとう、太一狼くん」
今年の今夜、2人でここにいられることに。
太一狼も、月の言葉に幸せそうな笑みを浮かべ、そっと肩に腕を回す。
寒くないように、なるべく2人でくっついて。
ちょっと小さな囁き声で、他愛ないけど楽しいお喋り。
……何故だろう。
今日は、夜景も星空も、いつもよりずっと綺麗に見える。
クリスマスの夜だから?
いいや、それだけが理由じゃない。
すぐ傍に、愛しい人の温もりがあるから。
愛しい人と、一緒に見つめている景色だから。
ふと、会話が止まる。
ぴたりと寄り添っている所為か、互いの呼吸が、心音が、やけに耳に響いてくる。
考えていることは、多分同じ。
だから、もう言葉はいらない……。
………ゆっくりと、顔が近付く。
緩い吐息が、頬にかかる。
地上と、天空。
ふたつの煌めきに包まれて。
ふたつの影が、重なった………。
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