●プレゼントにサンタは如何?
クリスマス当日、『万屋』事務所には、そわそわそわそわ……と落ち着きなく部屋の中をウロウロしているトナカイがいた。
勿論本物ではなく、茶色いファー付きのジャケットと角のついたカチューシャでトナカイの仮装をした巽だ。
もうすぐ、恋人がやってくる。
部屋の飾りつけは完璧。
ツリーには2人で一緒に選んだオーナメントを吊り下げて、雪のようにふわふわのモールも巻いた。壁は、紙で作った輪っかがカラフルに飾る。
抜かりはない。はず。
けれどやっぱり、そわそわしてしまう。なんと言っても、2人きりで過ごす、初めてのクリスマスだから。
やがて呼び鈴が鳴って。
「ぉー、ハッピーメリークリスマース!」
巽は普段の2割増しくらいの明るさでお出迎え。
扉を開けると、そこに立っていたのはミニスカートのサンタクロースだった。
「メリクリたつみ!」
白いファーが縁取る赤いケープの裾を揺らし、未鳥が笑った。とても似合っていて、とても可愛い。
ああやっぱ俺の恋人は世界一!
そんなことを思いながらうやうやしく招き入れた巽は、姫君がなにやら手に大きな箱を下げているのに気がついた。
「って、何その箱!?」
「手作りけーき! ……全部食べてね?」
にっこり笑って箱を差し出す未鳥。長い黒髪に結ばれたクリスマスカラーのリボンが、ピョコリと揺れる。
「もっちろん! お茶いれるわ。コーヒーか紅茶、どっちがええ?」
巽もにっこり笑って、2人きりのクリスマスパーティーが始った。
箱から出てきた特大ケーキは、チョコレート生地をオレンジ風味のクリームが彩る力作で、未鳥は得意げにそれを切り分ける。
ケーキとお茶が用意できたら、クラッカーを鳴らして。
甘いティータイムを過ごしながら、プレゼントの交換。
笑って、笑って、持ち前のテンションで騒ぐ恋人たち。
そして、ふと――静寂が訪れた。
2人してソファへ。そしてそっと身を寄せ合い、未鳥はちょこんと巽の膝の上に座った。
巽は未鳥を後ろから抱き締める。きゅっ、と腕に力を込めれば、華奢な背中が巽の胸に預けられた。
吐息が触れるほど近い未鳥の耳元に、巽は囁く。
「……今年も俺と一緒におってくれて、ありがとな? ……あ、愛してる、で」
幸せを絵に描いたような微笑が未鳥の顔を輝かせるのに、時間はかからなかった。
「ン……、ボクも愛してる。来年も一緒に、ね?」
未鳥の返した真っ直ぐな言葉に、巽の頬が染まる。
窓の外では、ちらほらと雪。
ホワイトクリスマスに2人が気付くのは、これから少し、後のこと……。
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