●こんな2人ですが、まだ恋人未満なんですよ。
粉雪の舞う街角を歩く、忍とリネ。
辺りはすっかりクリスマスムード一色。
あっちを見て、にっこり。
こっちを見て、にっこり。
何とも言えない、ほんわかムード。
仲良く手を繋いで幸せそうな表情を浮かべているため、傍から見れば幸せそうなカップルにしか見えない。
しかし、ふたりはまだ恋人同士ではなく、いまのところは単なる仲良しさん。
ただし、それはふたりの間だけの事。
彼らの友人知人は『あぁ、こいつら両思いだな』と思っており、『まだ付き合っていなかったの?』と逆に驚かれてしまうほど。
去年の段階で指輪をプレゼントし合っているので、普通ならば気がつくはずだが、それでもまったく気づいていない、幸せいっぱいのオバカさん。
その癖、つい最近までお互いの名前すらまともに言えない位、緊張して始末。
それでも、ようやく忍は『リネちゃん』と呼び、普通に会話が出来るようになったのだが、リネの方は未だに『し、ししし忍さん……!!』と、どもってしまう。
「リネちゃん、見て見てっ! ほら、あれっ! 凄いよね〜」
黒い猫のぬいぐるみを抱きしめながら、忍が目に付いたものを次から次へと指していく。
リネも緊張した様子で白い猫のぬいぐるみを抱き締め、忍の指を追うようにして視線を送り、『は、はははは、はい、綺麗ですっ!』と答えを返す。
ふたりの持っている猫のぬいぐるみは、さきほど街角で購入したモノ。
示し合わせていないのに、お互いピンと来たものが、このぬいぐるみ。
この、ぬいぐるみを見ていると、日頃の嫌な事を綺麗さっぱり忘れてしまうほどの可愛さと破壊力を兼ね備えている逸品。
どんなにストレスが溜まっていても、思わず和んでしまうほど。
「リネちゃん、あっちも綺麗だよっ、行こうっ!」
満面の笑みを浮かべながら、忍がリネの右手をギュッと掴む。
そのため、リネが恥ずかしそうに頬を染め、『は、はいっ、忍さん……! ま、待って…!』と答えて胸をきゅんとさせる。
そして、ふたりは楽しそうに笑い声を響かせ、真っ白な雪に染まった街中を駆け抜けていった。
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