●Feliz Natal
クリスマス当日の天気は晴れ。風もゆるく、陽光を暖かく感じられる日和となった。
冬バラが咲き誇る薔薇園には、甘い香りが満ちている。その一角、蔓バラの垣根に囲まれた場所に、白いクロスのかかったテーブルと椅子が並んでいた。
先ほどからてきぱきと働いているのは、赤と青、色違いのメイド服を着た2人の少女たちだ。
「テーブルのセッティングはもうすぐ完了よ」
赤いメイド服の美夕が、テーブルを見回して言う。
「お茶の用意はバッチリだぜ」
青いメイド服の洸耶が、茶器の並んだワゴンを押してくる。
ここは、美夕の知人の所有・管理する薔薇園。この場所を借りて、これからクリスマスのティーパーティーを開くのだ。
もうすぐやってくるのは、2人の親友。
日頃、振り回してばかりいる親友の為に茶会を開こうという企画だった。
特別に準備した、リボンとフリルたっぷりのメイド服は、美夕と洸耶によく似合っている。
「喜んでくれるといいわね」
美夕は呟き、テーブルの上にカップを並べる。
「喜んでくれるさ」
ティーウォーマーにキャンドルをセットしながら、洸耶がにっこり笑う。
友人たちに感謝の気持ちを、今日、クリスマスの日に返したい。
少しでも親友に楽しんでもらおうと、訪れる親友の事を思いながら、2人は着々と準備を進めていった。
白いテーブルで、一際目立つのはクリスマスツリー。4段重ねのトレイには、サンドイッチやクッキーがたっぷり。
最後に、真っ赤なイチゴがたくさん乗った大きなクリスマスケーキを置けば、テーブルの上に足りないものは何もなくなった。
「うん。美味そうだな」
「美味しそうだけど……忘れちゃ駄目よ。今日の私たちはホスト役」
満足げに眺める洸耶に、美夕が一応釘を刺す。
「もちろんわかってるって」
笑って、洸耶は時計を確かめた。
約束の時間は、もうすぐ。
風でバラがそよぎ、甘く花が香る。
やがて、来訪者の影に、美夕と洸耶は満面の笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ、どうぞ楽しんでいってくださいませ♪」
声を揃え、大切な人を出迎える。
案内する先は、赤いバラに囲まれた白いテーブル。
2人の心を尽くしたお茶会だ。招かれた親友たちにも、きっと心は伝わるだろう。
青空の下のクリスマス。
やがて、バラの香りに紅茶の香りが重なって。
ほら、バラの垣根の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえてくる――。
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