空野・ウルフィリア & 劉鵬院・鏡

●初めてのクリスマス〜聖域〜

「うっす。まぁ入ってくれ」
「お邪魔します……」
 鏡は笑みを浮かべ、立っていたウルフィリアを自身の部屋へと招き入れた。
「俺の部屋へようこそ。そういや、初めてだったよな?」
 後ろ手に戸を閉め、何処か硬い動きの恋人の後に続いた鏡は、挨拶を交わしながらウルフィリアの前に回り込み、腕をその背へと回す。
 付き合い始めて2ヶ月、言葉通り鏡が恋人を部屋に招待したのは初めてだった。部屋に入ってまず飛び込んでくるのはソファーの後ろ、出窓の向こうに見える宝石箱のような夜景。街が生み出す光の粒は思わず見る者の目を奪う。
 そんな窓の隅には2人を模したぬいぐるみが飾ってるのだが、ウルフィリアはぬいぐるみにも、ヘタをすれば目の前のテーブルにすら気づかない有様で。
「こっちへ。立ってるのも何さね」
 鏡はウリフィリアを抱きしめたまま、身体をソファーへと誘導する。
「学園のクリスマスパーティーも楽しかったな」
 緊張しているのは誰の目にも明らかだったから、鏡は緊張をほぐすべく口を開いた。ふと思い出したのは銀誓館学園内にある温室でのガーデンパーティ。会話が弾めば緊張も解けるだろう。二人が共有する思い出であるなら尚更。
「んー、まだ緊張してるかね?」
「ぁ……ううん……ありがとう……鏡……」
 暫く後、相変わらず恋人を抱きしめたまま背中を撫でるの問に、ようやく落ち着いたらしいウルフィリアは小さく頭を振ると笑みを浮かべた。
「んで、どうかね? この部屋は」
「ぁ……うん……とても素敵」
 再開された二人のやりとりには、もう先ほどまでの緊張の影は見えない。本当の二人だけの時間が始まったとも言えた。ここは二人だけの聖域。
「好きだぜ……」
「うん……ありがとう……私も……大好き……」
 交わしあっていた言葉を何気なく止めて鏡が告白すれば、ウルフィリアは嬉しそうに微笑んで。どちらからともなく縮まった距離は二人の唇が重なることによって0になる。
「えーっとだ。メシにしよーか?」
「ぁ……うん」
 キスのあと、何気なく視線を逸らして鏡が口にした言葉へ頬を染めつつウルフィリアは頷いた。消していた部屋の明かりを付ければテーブルの上に並んだ料理とケーキが目に飛び込んでくる。二人の時間はまだ終わらないのだ。




イラストレーター名:緋烏