●聖夜に想いを込めて
「おお、ホワイトクリスマスだね〜」
クリスマスの夜、窓から外を見た砂夜は、ちらちらと降る粉雪に声を上げた。
ここは、銀誓館学園のパーティ会場。隣にいたクリストフも、その声につられて外を見る。
「……ねえクリストフ君。ちょっと外、出ない?」
誘いかける砂夜の言葉に「ああ、構わないとも」と快諾するクリストフ。上着を羽織って表に出れば、冬の夜特有の冷気が指先から忍び寄る。
粉雪が舞う中、2人は、しばし肩を並べて歩く。脇に並ぶ街路樹は、イルミネーションの光に彩られてキラキラときらめいていて……ふと、それを眺めた砂夜は、歩みを止めてクリストフの方を見た。
「? どうした?」
「ええと……これを渡そうと思って、ね」
言いながら、砂夜はポケットに入れておいたプレゼントボックスを取り出す。きっと、クリストフに似合うだろうから。そう思って選んだプレゼント。中身は、彼の髪と同じ、銀のブレスレットだ。
「身に付けてくれると嬉しいかなー、なんて。……メリー・クリスマス、クリストフ君」
「ありがとう。君のような素敵な女性からプレゼントを貰えるとは、嬉しいよ」
最初は驚きを見せていたクリストフも、それは一瞬だけ。ちょっと照れた顔で差し出す砂夜に、薄く笑んでそれを受け取った。
胸が、高鳴る。
高校3年生。これが銀誓館学園で過ごす、最後のクリスマス。
年が明ければ、卒業はすぐそこ。
……だから、伝えたい。
この気持ちが叶うかどうかなんて、分からない。実らず、片思いのままで終わるかもしれない。
でも、卒業を……別れの季節を迎えて、そのまま、この気持ちまでフェードアウトして終わるのだけは、嫌だから。
だから。
「……好きだよ」
ずっと言っているけど、でも、改めて。砂夜は自分の想いを口にした。
淡い期待と……そんな幻想があるはずないという、複雑に入り乱れた気持ち。返事が無くてもいい。ただ伝えたいから告げたのだ。
「さーって、戻ろうか?」
だから砂夜はそのまま、パーティ会場への道を引き返す。何気ない口調で……でも、照れ恥ずかしさと不安ゆえに、クリストフの姿を振り返れないまま……。
はらはらと、そんな2人の上に、粉雪は静かに降り続けていた。
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