月詠・アリス & 遠野・弥生

●サンタとお嬢様

 銀誓館の子供たちのために、夢とプレゼントを運ぶサンタクロース。
 そんなサンタクロースのバイトを気軽に引き受けたものの。
 厳しい寒さに震えるような冬の夜、何軒も家を回るこの仕事は、決して楽なものではなかった。
 気軽に引き受けたのは軽率だったかもしれない。弥生はそう思いながらも。
「さて、ここでラストね……」
 最後の仕事をこなすべく、とある高層マンションまでやって来た。
 ようやくこの家で最後だ。少し疲れた表情で、弥生はホッと安堵の息を漏らす。
 だが……この時彼女は、まだ知らなかった。
 プレゼントを置きにやって来た自分を。その人が遅くまで起きていて、待ち構えていたことを。
 弥生は最後の仕事を終えると、暗くシンと静まり返った部屋を立ち去ろうとした。
 ――その時。
「えっ?」
 じわりと、温かい手の平の体温を腕に感じて。
 優しく引かれるまま、隣の部屋へと連れて来られた弥生。
 そしてクリスマスツリーの光が灯る暖かいその部屋で、温もりの主は言った。
「可愛いサンタ……寒い中ご苦労様……」
 白と紫を基調とした綺麗なドレスに身を包んだ、お姫様。
 お姫様がサンタクロースのために、大きなケーキを用意して待っていたのである。
「う……わぁ……」
 弥生の瞳に、じわりとクリスマスツリーの電飾が滲む。
 アリスはそんな彼女を促して席へと座らせた。
 そして、今度は。
 お仕事を終えたサンタクロースが、お嬢様のおもてなしを受ける番。
「頑張ったサンタさんにも、プレゼントをあげましょうね……」
「ありがとうございます、最高のプレゼントです……!」
 大きなケーキを嬉しそうに食べ始める弥生。
 口いっぱいに広がる優しい甘さが仕事の疲れを癒し、心の中を温かく満たした。
 そして、おもてなしをするお嬢様も。
 弥生の笑顔をじっと見つめながら、ピンク色を帯びたその瞳をふっと細めて。
 一見無表情に見えるその顔に。
 照れくさいような、そして嬉しそうな。
 そんなほのかで優しい色を宿していたのだった。




イラストレーター名:白弥