名木・沙霧 & 設楽・咲羅

●聖なる夜の悪戯

「寒いな……今日は」
「冬だから寒いのは当たり前でしょ?」
 咲羅の呟きに軽口を叩きながら、沙霧は窓の外を眺めていた。はらはらと空から舞い降りる冬の風物詩達は、窓硝子に触れるとゆっくりととけ白い結晶から透明な水滴へと変わる。セーターの袖口から覗く剥き出しの指先へ触れる窓硝子は冷たく、吐息が触れれば白く曇った。外は雪。
「……沙霧」
 咲羅が自身の名を口にしても沙霧はさほど気にも留めず。いや、素っ気ない素振りをしたのだろう。だからこそすぐ後ろまで迫っている咲羅の姿が窓に映っていることにすら気づかない。咲羅は黒のソファーの横を通り過ぎ、ゆっくりと距離を詰めて、沙霧が手の届く位置まで来たところで背後から抱きしめた。
「きゃぅっ!? な、なによ! いきなり!」
 衝撃と同時に露出した肩に何かが触れ、沙霧は混乱する。視界に飛び込んできたのは間近にある咲羅の顔。
「ん……」
「んぅっ!?」
 慌てて沙霧が振り向こうとした時、すかさず唇を塞がれる。重なる唇と唇。瞳が一瞬抗議の色を浮かべるも、沙霧を見る咲羅の瞳は真っ直ぐで抗議の色はすぐに消え。いや、押し切られたと言うべきか。咲羅は正面に回り込み、沙霧の肩に手を置くと再度唇を奪う。
「んんっ」
 いつものようにからかうことも出来ず、抗うことも出来なかったが不快ではない。二度目の口づけは長かった。
「愛してるよ、沙霧」
「あ……あたし………よ、さくら……」
 ようやく解放された唇から漏れる声は何処かかすれ気味で。咲羅の声に応じた後、顔を赤く染めたまま沙霧は吐息をもらす。何気なく動かした視線が止まったのは自らの指。蒼い宝石の埋め込まれた指輪が照明の光を受けて銀色に輝いていた。それは咲羅からのクリスマスプレゼント。
「でもね……不意打ちは反則!」
 僅かな時間で余裕を取り戻した沙霧は指で咲羅の額をこづき、笑みを浮かべる。沙霧の表情は怒っていると言うより照れ隠しのようで、咲羅に向けて手を伸ばし、ここから沙霧の逆襲が始まるのかもしれない。




イラストレーター名:相楽