●かくれんぼ−清澄・ジュンの夢の中−
……ジュンは夢を見ていた。
そこは無闇やたらにファンシーで、きらびやかな情景の世界……。
辺りには沢山の蝶が飛び交い、お菓子の家のまわりには、いくつもの虹と雲と、やりたい放題。
「……ここは……どこ……」
その中でどんよりと暗い雰囲気を漂わせ、あいが呆れた表情を浮かべて辺りを眺める。
死んだ魚のような目で見ても、ここが現実世界ではない事が理解できた。
「嘯さ〜ん、どこっすか〜」
あいを探してきょろきょろと辺りを見回し、ジュンがケーキの船に乗って、どんぶらこと虹の川を渡っていく。
それに合わせて、あいがササッと茂みに身を隠し、通り過ぎて行くジュンに、ほんのりと生暖かい視線を送る。
「……ん? 誰……?」
誰かが足元でズボンを引っ張った。
その正体を確認するため、あいが足元に視線を移す。
そこにいたのは、羽の生えたウサギ達。
ウサギ達はあいの視線に気づき、ぴょんぴょんと肩を駆け上がっていく。
「ひょっとして……、欲しいのは……、これ?」
いつの間にか頭に生えていたキノコを引き抜き、あいが羽の生えたウサギに差し出した。
ウサギは幸せそうな表情を浮かべ、あっという間にキノコを平らげた。
一瞬、ウサギがキノコを食べる事が出来るのか、疑問に思ったりもしたが、ここはジュンの見ている夢の世界。
細かい事を気にしたら、負けである。
……きっと。
「捕まえたっすよ、嘯さん!」
背後から勢いよく飛びつき、ジュンが勝ち誇った様子で笑みを浮かべる。
しかし、あいは『だから何?』と言いだけな表情を浮かべ、彼女の顔を見つめて深い溜息を漏らす。
「……って、もうちょっと驚いたら、どうなんっすか! ここで普通なら、『おおっと、しまった!』とか、『どうして、ここが分かったの!』とか、言わなきゃ駄目なんっすよ。……って、いないし! もうっ! 絶対に逃がさないっすからね!」
説教をしている最中にあいの姿が見えなくなり、ジュンがハッとした表情を浮かべて、勢いよくケーキの船に飛び乗った。
そして、ジュンはどこまでも、あいを追いかけていく。
これが夢の出来事であるとは、まったく気づかずに……。
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