樹神・陽気 & 片岡・友明

●First Waltz 〜聖なる夜の思い出に〜

「うーん……」
 苦虫を噛み潰したような顔で、友明はパーティ会場に立っていた。自分の体を見下ろせば、そこには真新しいタキシード。着慣れないフォーマルな服装に、実に窮屈だと友明は感じる。
「ね、友明君。折角なんだから踊ろうよ」
 そんな彼に、ドレスアップした陽気が手を差し伸べて誘う。
 どうせなら踊って楽しんだ方がいいでしょ? と笑う彼女に、確かにその通りだなぁと溜息混じりに頷く友明。手を取り合ってホールに出た2人は、演奏にあわせて踊る。
 でも、友明の動きは、どうしてもぎこちない。着慣れない格好に不慣れなダンス……それは、当然といえば当然の事だった。
 だから陽気はできるだけ友明に合わせて踊る。彼が踊りやすいように、彼が楽しく過ごせるように。
(「……あれ?」)
 踊るうち、やがて陽気は気付いた。見上げた時の、視線の高さ。また、少し背が伸びたのかな? なんて思いながら、頑張って踊る友明の顔を見上げて笑う。
 足がぶつかりそうになっても慌てない。落ち着いて、落ち着いて。
 友明も次第にコツを掴み、2人は徐々に息のあったダンスを楽しんでいった。

 ひとしきり踊った後、2人は演奏の合間を見計らってホールから引き上げ、表にある大きなクリスマスツリーの前へと移動していた。
「ダンスってすげー疲れんな……」
 気力なんて使い果たしてしまったのだろう。友明は、ぐったりとした顔で言った。
「お疲れさまだよ」
「ちょ……」
 そんな彼の様子に、陽気はにっこり笑って友明の頭をぽむぽむっと叩く。それに口を開いて何か言い返そうとする友明だが、陽気はそれを遮るようにラッピングされた袋を差し出す。
「はい、これ。約束通り、プレゼントだよっ♪」
「あ……ん、ありがとなっ」
 それに、一瞬動きを止めて、そして友明は少しだけ照れ臭そうにしながら受け取った。そんな彼の様子が、なんだかちょっぴり微笑ましくて、陽気の顔には自然と笑みが広がる。
「……来年も、こうやって一緒に踊れるといいねっ。あ、でもその時は、今日よりも、もうちょっと上手く踊ろうね」
「へーへー」
 にっこり。
 陽気の言葉に軽い頭痛を覚えながらも、友明はもうどこか諦めた様子で頷いた。
 その反応に、また陽気はくすくす笑って。
 ――こうやって、一緒にクリスマスが過ごせる喜びを噛み締めながら、「メリー・クリスマス」と、とびきりの笑顔で笑いかけた。




イラストレーター名:莢