緋野・龍志 & 風深・翼

●掌から伝わる想い


 ヒラヒラと舞い降りる雪の結晶。日も暮れ、空を覆うのは灰色の雪雲。
「ふぅ……」
 別段その天気が原因という訳でもない。なのに、龍志と翼の二人は並んで歩きながらもほぼ無言だった。視覚的に開いた二人の距離が、追い打ちになっているのはわかりきっているのに。

「ね、翼。今回のこれは今日限りのイベントだけどさ、今日だけじゃなくて明日からもこのままでいない?」
 きっかけは、クリスマスパーティーでの一言。
「……どう言う意味だ、龍志?」
「どういうって……そのままだよ。翼のことが好きだから……だから、ね。恋人になってください」
 問いかけに返した答え、告白へ翼が口にした言葉は。
「……少し考えさせてくれ」

 気まずい。一言で言うならまさにそんな空気が二人の間を流れていた。流れる空気が刺すように痛いのはきっと冬だからだろう。手袋をしていない龍志の手は風の冷たさを直に感じている。微かに横目で翼の顔を覗き見ようとするが、俯いた顔がどんな表情を浮かべているのかはわからなかった。ただ、向けた視線を己の手に落としてから龍志は口を開いた。
「えーっと、翼?」
 呼びかけに答えはない。ただ横を歩く翼の瞳だけが龍志へと向いていた。
「手ぇ、繋いでいいかな?」
(「手を繋ぐ……?」)
 挫けず続けた言葉に翼は目を剥く。
「……勝手にしろ」
 無言で考え込んだ後、返した声は気恥ずかしさからか小さく素っ気なかったけれど、OKには違いない。
「それじゃ……」
 そっと手を伸ばし、龍志は翼の手を握る。剥き出しの細い指は龍志の物と同じかそれ以上に冷たくて。二度と離さないとでも言うかのように取った手を強く握った。
「やっぱり雪が降るぐらいだし、寒いよね」
 そっぽを向いた翼の顔から雪を降らす曇り空へと視線を移した龍志は、呟く。
(「……私は、龍志のことをどう思っているのだろう 」)
 翼はうっすらと頬を染め、手のひらから相手の温もりを感じながら己に問うた。
(「確かに大切な存在、でも」)
 答えはまだ出てこない。手のひらから伝わる優しさに何処か泣きそうになるけれど。答えはまだ……。
(「それでも、確りと受け止めて考えなければ」)
 翼は胸中で小さく頷く。手を繋いだままで。




イラストレーター名:暁ひさぎ