乾・舞夢 & 夜取木・楓

●クリスマスにはジンジャークッキーを

「今日のパーティ、楽しかったわね」
 舞夢のお茶会に招待され、楓は彼女のお屋敷の屋上にいた。
 そこで話されていたのは、今までの依頼や、面白い本やハーブ、とりとめのない話など。
 特にふたりが盛り上がったのは、今日のパーティ。
「何だか、あっという間に終わっちゃったね」
 今日のパーティを思い出し、舞夢が楽しそうな表情を浮かべる。
 舞夢が担当したのは、クリスマスツリーの飾りつけ。
 あまりにもジンジャークッキーが美味しかったので、舞夢は飾りつけの最中に何度もつまみ食いをした。
「それだけ、楽しかったって事じゃない」
 彼女に対して答えを返す、楓がゆっくりと椅子に腰掛ける。
 楓の目の前にはジンジャークッキーの入った籠。
「うんうん、ボクもそー思った♪」
 幸せそうな表情を浮かべ、舞夢がジンジャークッキーをパクッと齧った。
 途端にジンシャークッキーの甘みが口の中に広がり、今まで以上に幸せな気持ちに包まれていく。
「クッキーも美味しかった?」
 籠の中からジンジャークッキーを手に取り、楓が彼女に問いかけるようにして微笑みかけた。
 ジンジャークッキーが円らな瞳で、舞夢の顔を見つめている。
(「お、美味しそう……」)
 ……舞夢のお腹がグウッと鳴った。
「うん、とっても。ジンジャークッキーさんが、ボクに食べて食べてって言っていたもん」
 満面の笑みを浮かべながら、舞夢が躊躇う事なく答えを返す。
 ジンジャークッキーが、『食べて、食べて』と言っている。
 少なくとも舞夢には、そんな声が聞こえていた。
「本当に……?」
 舞夢に確認しながら、楓がジンジャークッキーを齧る。
(「確かに、美味しい……」)
 これなら彼女が虜になるのも無理は無い。
「ほ、本当……かな」
 一瞬、胸がドキッとした。
 ジンジャークッキーを齧ったまま、きゅい〜んと子犬のような表情を浮かべる、舞夢。
「まぁ、いいわ。あんまりいじめたら、可哀想だし……」
 さすがに彼女が可哀想に思ったのか、楓が苦笑いを浮かべて紅茶を飲む。
「これからも、よろしくね♪」
 舞夢がさりげなく、なんでもないように、ボソリと呟く。
「ええ、こちらこそ」
 楓がニコリと笑って答えを返す。
 その答えを聞いて、舞夢はさらに幸せな気持ちに包まれた。




イラストレーター名:こはる