荒城・夜月 & 狩名・功太朗

●伝染性恋愛症候群

 二人で迎える初めてのクリスマス。
 それは二人で迎える初めての、大きなイベント。
 待ち合わせ場所は学校の中で行われているクリスマス会場の中のひとつ。
 ここであっているのは分かっている。けれどもごった返す人ごみに、油断すると流されてしまう。
 その人ごみは、二人が出会うのを阻むように、行く手を邪魔する。

 ふたりはまだ、互いの姿を見つけられずにいた。
 功太朗の姿を探し夜月が走れば、彼女の苺色の長い髪の毛がその動きに倣って揺れる。結わいた髪の毛には功太朗から貰った六花模様の純白のリボン。端には真っ赤な苺が刺繍されている。
 人ごみを駆け分けるのは苦手。
 人ごみに逆らって走るなんてもっと苦手。
 だけど1分、1秒でも早く会いたいから。
 早く出会えれば、早く出会った分だけ、長く一緒にいられるから。
 そしてまた苺色の髪の毛が揺れる。しかしそれはすぐ他の誰かの影に隠されてしまう。

 彼女と過ごす初めてのクリスマスは、功太朗ももちろん楽しみにしていた。
 今までのクリスマスよりも、断然煌びやかに思える今年のクリスマス。
 だがしかし、彼もまた例外ではなく、人ごみに悪戦苦闘していた。
 早く彼女を見つけたいのに、見つけられない。
 もしかすると会場までたどり着けないかもと思ってしまうような不安。
 そしてもっと不安なのは、彼女を見つけられないのではないだろうかという事。
 そんな不安をかき消すように、功太朗は向かってくる人ごみをかき分けて、愛しい彼女の姿を探す。
 少しでも長く長く、一緒に居たいから、功太朗は人ごみを逆らって走る。
 
「………!」
 駆けていた夜月の足が止まった。
 視線がある一点に釘付けになる。
 髪の尻尾がふわり揺れた。
 それに確信を持った夜月は、声を上げた。
「こーたさん、こーたさん……!」
 私はここよ早く見つけて。
 その願いはすぐに叶えられる。
「夜月ちゃん!」
 苺色の髪の少女を見つけた、功太朗も彼女の名前を呼び、今まで以上の人ごみを掻き分けて彼女の元へと急ぐ。

 ようやく、見つけた大事な相手。
 夜月は功太朗の手をぎゅっと握り締める。
 もうはぐれないように。
 それに功太朗も応え、しっかりと指を絡ませあう。
「やっと逢えたね……!」
 夜月の言葉に頷く功太朗。

 そして二人のクリスマスが始まる。




イラストレーター名:ゆく